Column コラム

山本 崇雄

  • 進徳女子高等学校校長
  • 教育系コンサルタント

ロリポップモーメントから考える、日常のリーダーシップと関係構築

2026.08.27

前回の楢島先生に続き、今回も「リーダーシップ」をテーマにお届けします。

皆さんは、「リーダー」と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか。管理職や役職に就いている人でしょうか。それとも、周囲に働きかけ、誰かの一歩を後押しする人でしょうか。

リーダーシップは、限られた立場の人だけが発揮するものではありません。新しい学期の始まりは、一人ひとりが自分なりのリーダーシップについて考える絶好の機会でもあります。

これから新学期を迎える学校の方にも、すでに新しい学期をスタートしている方にも、ぜひこのタイミングでお読みいただけたら嬉しいです。

何気ない行動が、誰かの人生を変える

先日、ある研修で、教育者のドリュー・ダドリー氏による「Everyday Leadership」というTEDトークを見ました。そこで紹介されていたのが、「ロリポップモーメント(Lollipop Moment)」という考え方です。

大学生活の初日、不安のあまり入学を取りやめて帰ろうとしていた一人の女子学生がいました。そのとき、少し変わった帽子をかぶったドリュー氏が、ロリポップ(スティックのキャンディー)を介して彼女と周囲の人に冗談を投げかけ、その場に笑いを生み出しました。ほんの短いやり取りでしたが、緊張していた彼女は気持ちを変え、大学に残ることを決めます。

その後、彼女はドリュー氏に「あの瞬間が自分の人生を変えた」と伝えました。しかし、ドリュー氏自身は、その出来事をまったく覚えていなかったそうです。

自分にとっては何気ない言葉や行動でも、それが誰かの人生を良い方向へ動かすことがあります。ドリュー氏は、そのような瞬間をロリポップモーメントと呼び、リーダーシップを「一部の特別な人による偉大な行為」ではなく、誰かの人生を少し良くする日常的な行為として捉え直すことを提案しています。

TEDxToronto - Drew Dudley "Leading with Lollipops"

https://www.youtube.com/watch?v=hVCBrkrFrBE

リーダーシップは、役職ではなく関係の中にある

僕たちは、リーダーシップという言葉を聞くと、組織の先頭に立つこと、大きな決断をすること、多くの人を強く引っ張ることを思い浮かべがちです。学校でいえば、校長や管理職、学級担任、生徒会長など、役職や立場と結びつけて考えることも少なくありません。

しかし、ロリポップモーメントが教えてくれるのは、リーダーシップは役職ではなく、誰かとの「関係」の中に生まれるということです。

僕が考えるパブリック・リレーションズとは、「個人や組織体が最短距離で目標や目的を達成する、『倫理観』に支えられた『双方向性コミュニケーション』と『自己修正』をベースとしたリレーションズ、つまり関係構築活動」です。

この視点から考えると、リーダーシップとは、一方的に誰かを動かす力ではありません。互いの声を聴き合いながら、その人が前に進むための関係をつくっていく活動です。

教師から生徒へ、生徒から教師へ、生徒同士、教職員同士、学校と保護者、学校と地域。学校の中には、毎日たくさんの関係が生まれています。その関係の一つひとつを少し良い方向へ動かすことが、日常のリーダーシップなのだと思います。

小さな言葉がけが、対話の扉を開く

例えば、教室に入ってきた生徒に名前を呼んで挨拶をすること。いつもより元気がない様子を見て、「何かあったの?」と決めつけるのではなく、「今日はどんな感じ?」と尋ねてみること。発言できなかった生徒に、授業後、「考えている表情が印象に残ったよ」と伝えること。失敗した生徒にすぐ正解を教えるのではなく、「次はどうしてみようか」と一緒に考えること。

忙しい職員室で、同僚の小さな工夫に気づき、「あの言葉がけ、よかったですね」と伝えることも同じです。どれも、大きな改革ではありません。それでも、その一言によって、「自分を見てくれている人がいる」「ここにいてもよい」「もう一度やってみよう」と思える人がいるかもしれません。

ただし、大切なのは、こちらが良い言葉をかけたつもりになることではありません。コミュニケーションは、言葉を発した時点で完成するものではなく、相手にどう届いたのかを確かめて初めて双方向になります。

励ますつもりの「もっとできるよ」が、相手にはプレッシャーとして届くこともあります。「大丈夫」という言葉が、場合によっては「困っていることを分かってもらえなかった」と感じさせることもあります。

だからこそ、相手の表情や反応を見て、必要なら問い直し、聴き直すことが必要です。ロリポップモーメントは、上手な言葉を一方的に与えることではなく、相手との間に小さな対話の扉を開くことから生まれるのだと思います。

自分の関わり方を修正できる人がリーダーになる

ここには、パブリック・リレーションズを支える「倫理観」「自己修正」も深く関係しています。

何気ない一言が誰かを励ますことがある一方で、悪気のない一言が相手を傷つけることもあります。教師は生徒に与える影響が大きいからこそ、「自分は正しいことを言った」と考えて終わるのではなく、その言葉が相手の幸せや成長につながったのかを振り返る必要があります。

僕がここで言う倫理観とは、教師の考えを押し通すための正しさではなく、「関わる人たちができる限り幸せになるにはどうすればよいか」を考える「誰も取り残さない」姿勢です。そして自己修正とは、うまくいかなかったことを失敗として隠すのではなく、相手の声を手がかりに、より良い関わり方へ変えていくことです。

「さっきの言い方はどう感じた?」
「僕の受け取り方が違っていたかもしれない」
「もう一度、あなたの話を聞かせてほしい」

教師がこのような言葉を使うことは、権威を失うことではありません。むしろ、自分の言動を振り返り、関係を修正できる姿を示すことも、大切なリーダーシップです。

先生も間違えることがあり、対話によってやり直すことができる。その姿を日常の中で示すことは、生徒が将来、異なる立場の人と関係を築いていくための学びにもなるはずです。

学校は、誰もがリーダーになれる場所

僕たちは、自分が誰かに与えたロリポップモーメントの多くを知らないまま生きています。だからといって、「誰かの人生を変えよう」と力む必要はないと思います。相手を変えることを目的にすると、コミュニケーションは一方向になりやすいからです。

僕たちにできるのは、目の前の人の声に耳を傾け、その人の存在を大切にし、必要に応じて自分の関わり方を変えながら、より良い関係をつくろうとすることです。そして、自分自身が誰かから受け取ったロリポップモーメントに気づいたなら、「あのときの言葉に助けられました」と伝えることも大切です。その言葉によって、今度は相手が自分の行動の意味に気づくかもしれません。

リーダーシップとは、世界を一度に大きく変えることではなく、対話を通して目の前の一人が見ている世界を少し明るくすることなのではないでしょうか。明日の教室で交わす挨拶、ふとした問いかけ、相手の話を待つ数秒。その小さな行為が、誰かにとってのロリポップモーメントになるかもしれません。

あなたのロリポップモーメントを教えてください

本校では、2学期最初の研修を「あなたのロリポップ・モーメントを教えてください」という問いから始めました。問いかけると、皆さんそれぞれに思い当たる場面があるようでした。

対話の中では、ある部活動の顧問が何気なくかけた一言をきっかけに、一人の生徒の部活動への向き合い方が大きく変わったというエピソードが紹介されました。ところが、その顧問自身は、その言葉をかけたことを覚えていなかったのです。

教師は、日々何気なく交わしている言葉によって、生徒の背中を押したり、その先の人生を明るくしたりすることのできる、とても素敵な仕事です。そして、目の前の相手を見つめ、その人に必要な言葉を届けることこそ、AIには代わることのできない教師の大切な役割なのかもしれません。

役職があるかどうかではなく、目の前の誰かの幸せや成長につながるように、自分の言葉や振る舞いで働きかけていくこと。その一つひとつの小さな行動こそが、私たち一人ひとりにできる「リーダーシップ」なのだと思います。