Column コラム

楢島 知哉

  • 三田国際科学学園中学校・高等学校 教頭
  • グローバル教育アドバイザー

「一人で背負わない学校」は、どうつくられるのか

2026.08.16

幼少の頃からグループ内でリーダーになることが多くありました。小中高では学級委員、児童会長、委員会の委員長、サッカー部キャプテンなどの役職を歴任し、大学では友人とサッカーのサークルを立ち上げ、その中心的な役割をつとめていました。教員になってからも教科や分掌などの責任者を務め、現在勤務している学校では管理職に就いています。

そのような経歴を持っているため、「『リーダーシップ』とは何か」、「どのようなリーダーが求められているのか」ということに人一倍興味を持ち、探究を続けてきました。今回のコラムでは、私の永遠のテーマである「リーダーシップ」と「パブリックリレーションズ」を紐づけて考え、思うことを書いてみたいと思います。

前回のコラムでは、学校や教育組織においてパブリックリレーションズとは、単なる情報発信や広報活動ではなく、日常の対話を通じてさまざまな関わる人たち、つまりステークホルダーと信頼関係を築いていく営みである、という点について述べました。
それは保護者や地域との関係に限らず、教職員同士のコミュニケーションや、学校内での意思決定のあり方とも深く結びついています。

では、そのパブリックリレーションズの質を大きく左右するものは何でしょうか。
私は、その一つがリーダーシップのあり方だと考えています。

学校現場では、校長や管理職、部長・主任層が日々、多くの判断を迫られています。教育課程の編成、行事の見直し、保護者対応、働き方改革への対応。どれも「正解」が一つではなく、慎重さとスピードの両方が求められます。しかし、どれほど妥当な判断であっても、「なぜそうするのか」「どのようなプロセスで決まったのか」が共有されなければ、現場には戸惑いや不信感が生まれます。ここに、リーダーシップとパブリックリレーションズが交差する地点があります。

学校ではしばしば、マネジメントとリーダーシップが混同されがちです。時間割や分掌の調整、進捗管理、トラブル対応はマネジメントの役割です。一方で、この学校は何を大切にしているのか、どの方向を目指すのかを示し、納得感をもって人を動かすのがリーダーシップだと考えています。多忙な日常の中で、後者が十分に語られないと、「決まったから従う」という関係が生まれ、相互信頼の上に立ったパブリックリレーションズの視点で言えば、組織内部の信頼関係は弱まっていきます。

実際、ある学校では、校長が改革的な取り組みを打ち出したものの、その背景や問題意識が十分に共有されないまま進められました。職員会議では大きな反対意見は出ませんでしたが、職員室では不安や不満が広がり、結果として保護者説明も後手に回りました。方針そのものが誤っていたわけではありません。問題は、「誰が決め、どう共有されたのか」というプロセスにありました。

こうした状況を乗り越えるヒントとして注目したいのが、シェアドリーダーシップという考え方です。これは、特定の役職者だけがリーダーシップを発揮するのではなく、学年や分掌、プロジェクトごとに、適切な人がリーダーの役割を担う状態を指します。教育現場には、教科主任や学年それぞれが責任意識を持つなど、もともとこの考え方と相性のよい土壌があります。校長や管理職の役割は、すべてを自分たちで決めることではなく、現場が主体的に動けるよう支え、整えることへと変わっていきます。

*筆者が学内で実施した「ミドルマネージャー研修」にて使用したスライドから引用

このとき重要な役割を果たすのが、部長・主任層をはじめとするミドルマネージャーです。上からの方針をそのまま伝える「中継点」になるのか、背景や意図をかみ砕いて伝える「翻訳者」になるのかで、組織の雰囲気は大きく変わります。ミドルが対話を促し、疑問を言語化し、共通理解をつくることは、まさに学校内のパブリックリレーションズの中核と言えるでしょう。

さらに視野を広げると、近年注目される「ティール組織」の考え方も示唆に富んでいます。ティール組織は完成形ではなく、方向性です。セルフマネジメント、ホールネス(全体性)、自己修正により進化する目的という三つの要素は、学校現場に置き換えることができます。任せる勇気、弱音や迷いを出せる職員室、状況に応じて教育の目的を問い直す姿勢。これらはすでに多くの学校で、小さく実践されています。

*筆者が学内で実施した「ミドルマネージャー研修」にて使用したスライドから引用

強いリーダーとは、すべてを一人で背負う人ではありません。さまざまなステークホルダーと関係性をつくり、語り合える場を整え、リーダーシップを分かち合える人です。シェアドリーダーシップが根づいた学校では、説明が早く、納得感が高まり、トラブルへの対応力も向上します。その積み重ねが、保護者や地域との信頼関係、すなわち学校のパブリックリレーションズを強くしていきます。

正解のない時代だからこそ、倫理観をベースに、双方向環境で対話し、共有し、任せていく。自己修正を通して行う営みそのものが、これからの学校に求められるリーダーシップであり、パブリックリレーションズなのだと考えています。