Column コラム
山本 崇雄
- 進徳女子高等学校校長
- 教育系コンサルタント
「もう遅い」と思ったときに——安藤百福の生き方から考える、目的と挑戦
2020.10.01
新しいことを始めようとするとき、「今からでは遅いのではないか」と考えてしまうことがあります。年齢や締め切りまでの残り時間を気にしているうちに、まだ始めてもいないことを諦める理由が、いつの間にか自分の中に増えていく。私にも、そんな経験があります。
そういうとき、思い出す言葉があります。
“It’s never too late to do anything in life.”
「人生に何かをするのに、遅すぎるということはない」
日清食品の創業者、安藤百福さんの言葉です。
安藤さんは、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を生み出したことで知られていますが、その歩みをたどってみると、この言葉が単なる励ましではなく、彼自身の生き方そのものだったことが分かります。
挑戦に年齢を持ち込まない
安藤さんがチキンラーメンを完成させたのは、40代後半のことでした。その後も挑戦は続き、61歳で「カップヌードル」を開発し、さらに90歳を過ぎてからは宇宙食ラーメンの開発にも乗り出しています。
宇宙では、地上と同じ方法でラーメンを食べることはできません。無重力の環境でもスープが飛び散らないように工夫し、麺も食べやすい大きさや形にする必要があります。こうした課題を一つずつ解決しながら、宇宙食ラーメン「スペース・ラム」は完成しました。
90歳を過ぎてなお、「次は宇宙で食べられるラーメンをつくろう」と考え、実際にプロジェクトを動かしていく。その姿を見ると、私たちが普段口にしている「もう遅い」という言葉が、少し違って見えてきます。
私たちは、できない理由として時間を挙げることがあります。「今から新しいことに挑戦するには遅い」「締め切りまで数日しかない」「今さら頑張っても間に合わない」。もちろん、仕事にも学校にも期限はありますし、それを守ることは大切です。
ただ、一つの締め切りに間に合わなかったことと、その挑戦そのものをやめることは、同じではありません。ある機会を逃したとしても、本当にやりたいことまでそこで終わらせる必要はないのだと思います。
チキンラーメンの先にあったもの
安藤百福さんには、もう一つ印象的な言葉があります。
“Peace will come to the world when all its people have enough to eat.”
「みんなに十分な食べ物がいきわたれば、世界は平和になる」
安藤さんにとって、チキンラーメンやカップヌードルをつくること自体が最終的な目的だったわけではありません。その先には、「食を通して人々の暮らしをよりよくしたい」という、もっと大きな思いがありました。
そう考えると、チキンラーメンもカップヌードルも、宇宙食ラーメンも、その目的に近づくための一つの手段だったことが見えてきます。
この「目的と手段を分けて考える」ということは、パブリック・リレーションズにおいても重要です。
私たちは何かに取り組んでいると、目の前の方法そのものを目的だと思い込んでしまうことがあります。新しい授業方法を取り入れること、ICTを活用すること、イベントを成功させること、資格を取ること。どれも意味のあることですが、「なぜそれをするのか」という問いを失うと、手段だけが残ってしまいます。
その先に、どんな状態をつくりたいのか。誰に、どんな変化をもたらしたいのか。そこまで考えて初めて、自分が本当に目指しているものが見えてくるのだと思います。
「なりたい自分」から逆算してみる
皆さんには、「こんな自分でありたい」と思う姿があるでしょうか。
仕事で何を達成したいかということよりも、もう少し大きな問いです。どんなふうに人と関わる人でありたいのか。自分の仕事を通して、周囲にどんな影響を与えたいのか。どんな社会を次の世代に残したいのか。
そうした問いへの答えが、自分にとっての「最上位の目的」になるのかもしれません。
目的がはっきりしていれば、一つの方法がうまくいかなかったとしても、そこで終わる必要はありません。別の方法を試せばよいからです。結果が思うように出なければ、立ち止まって考え、必要なら人の意見を聞き、自分のやり方を少し変えてみる。
パブリック・リレーションズで大切にされる「自己修正」という考え方も、こうした姿勢とつながっています。
最初からすべてがうまくいく人はいません。むしろ、うまくいかなかったときに、自分の方法を見直しながら目的に向かって進み続けられるかどうかが、その後を大きく左右するのではないでしょうか。
人生の目的には、締め切りがない
学校で働いていると、私たちはたくさんの締め切りに囲まれています。テストまであと何日、学期末まであと何週間、年度末まであと何か月。そうやって時間を区切りながら仕事を進めることは必要ですが、区切りに慣れすぎると、「間に合わなかったら終わり」と考えてしまうことがあります。
けれど、「どんな教師になりたいのか」「どんな人でありたいのか」という問いには、本来、締め切りはありません。
今年できなかったことに来年挑戦してもいいし、これまで苦手だったことを今から学び始めてもいい。何歳になってから新しい目標を持っても構わない。安藤百福さんが90歳を過ぎて宇宙に目を向けたことを思うと、自分自身で線を引かない限り、挑戦を続ける余地はいつまでも残っているのだと感じます。
だから、思うように進めないときほど、ただ焦るのではなく、いったん自分の目的に立ち返ってみることが大切なのだと思います。何をしたかったのか、そのために今できることは何かを考え直せば、次の一歩は意外と見つかるものです。
行き詰まったら、チキンラーメンを
それでも、「もう無理かもしれない」と感じる日はあります。
そんなときは、チキンラーメンを食べてみるのもいいかもしれません(笑)。
目の前の一杯を見ながら、40代後半でチキンラーメンを生み出し、61歳でカップヌードルを世に送り出し、90歳を過ぎて宇宙食に挑戦した人のことを思い出してみる。そうすると、年齢や締め切りばかりを気にしていた自分の視野が、少しだけ広がる気がします。
大切なのは、いつ始めたかではなく、自分が大事にしたい目的に向かって歩き続けることなのかもしれません。うまくいかなければ、やり方を見直し、必要なら遠回りをしながら、また進めばいい。
安藤百福さんの言葉を借りるなら、人生に何かをするのに、遅すぎるということはないのです。
→安藤百福さんについて知りたい方は以下のサイトへ
日清食品安藤百福クロニクル
https://www.nissin.com/jp/about/chronicle/
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