Column コラム

PR(パブリック・リレーションズ)の視点で子育てを考える① 子どもとの対話1〜心理的安全性の高い場にする〜

2022.03.03

 今回から、僕が学校や講演なのでよく聞かれる子育ての悩みについてPRの手法で解決する事例をシリーズでお伝えしたいと思います。

Q うちの子は家で学校のことを話さなくて困っているのですがどうしたらいいでしょう。

A 家庭が子どもにとって、安心して話せる場になっていない可能性があります。

 この問いに答えていくために、子どもたちの少し先の未来に視点を置いてみたいと思います。ソニー生命が行った調査の中に「将来子どもについて欲しい職業」という項目があります。(https://www.sonylife.co.jp/company/news/2020/files/210302_newsletter.pdf) 2021年の結果では、男女とも「公務員」が1位でした。選んだ理由をみると、1位の「公務員」については、「安定している職業だから」といった理由が多く挙げられました。

 もちろん、子どもに安定した職業に就いて欲しいという願いを否定するわけではありません。しかし、この願いが強ければ強いほど、子どもの選択を変更したくなります。「安定した仕事についてほしい」「有名大学に行ってほしい」「○○を習ってほしい」という願いの連鎖が子どもたちに迫っていきます。そして、日常の些細なことでも「〜しなさい」「〜した方がいいよ」と指摘したくなります。このように指摘されると、子どもにとって「否定されている」と感じ、子どもが自己決定する機会を奪っていきます。大人の「こうしてほしい」という願いのもと「〜しなさい」「〜した方がいいよ」と言われ続けると、「どうせ言っても無駄だ」と感じ、子どもは話さなくなります。皮肉にも「子どものため」と思ってのことが、家庭を子どもが安心して話せない場にしているのです。

 子どもが家庭で安心して話せる環境を作るためには、まず子育ての最上位の目標を大人が意識することが大切です。

「変化の激しい社会で、自律して幸せに生きていく力を育むこと」

 この目的に違和感がなければ、手段である職業や学び方は自由であっていいはずです。人生100年時代で、ライフスタイルは変化し続けています。高校→大学→就職という一本道ではなく、学びや仕事、遊びを同時に行ったり、繰り返したりしながらより良い人生を設計し続けることが求められるでしょう。

 常に自分と他の幸せみんながハッピーであること)を考えながら、生き方をアップデート(試行錯誤しながらより良い方向に進むこと)していくためには、子どもの「やりたい」という気持ちを認めていく対話(対等に対話をすること)が必要です。そして、「やりたい」を実現させるための選択肢を増やしていくことが重要です。

 例えば、「医者になりたい」という子がいたとします。医者になるためには、医学部に行って医者になるという方法がありますが、この1本道に囚われてしまったら、うまくいかなかった時、自己修正ができなくなります。むしろ、「なぜ医者になりたいか」という志を見つけていく対話をしていくことが大切です。そこで、「医者になって病気の子どもたちを救いたい」という志が見えて来たとしたら、この「やりたい」を実現するには必ずしも医者になる必要がないことに気づきます。研究者や薬剤師、病院のスタッフや仕組みを作る行政、政治家など手段は多岐に広がっていきます。自分の「やりたい」を実現させるのにさまざまな手段があることを伝えていくのが大人の役目なのです。思うような仕事に就けなくても、その仕事自体が無くなってしまっても、その先にある志はなくなりません。

 この流れで、子どもとの日々の対話を考えましょう。まずは子どもたちの「やりたい」を受け止め、子どもにとって家庭が心理的安全性の高い場にすることが、子どもとの対話を始める土台になります。「大人は私のいうことを受け止めてくれる」と感じれば、子どもは話すようになります。逆に、「大人は自分のことを受け止めてくれない」と感じれば、話しません。子どもが家で話さなくなる理由の一つがここにあります。

 ここまで読んでいただき、先の「将来子どもについて欲しい職業」という調査に違和感を感じませんか?この調査に「子どもの付きたいと思う職業」という選択肢があるべきです。人生を決めていく主語は子ども自身なのですから。

 パブリック・リレーションズの対話の手法について、さらに具体的に知りたい場合は、PR for Schoolの教材がお手伝いできると思います。リアルな社会の実例をもとに、対話の具体例を学ぶことができます。ぜひお気軽にお問合せください。