Column コラム
なぜゲームが好きじゃダメなんですか?〜風呂敷理論〜
2021.06.20
関東地方もようやく梅雨に入りました。季節の変化が暦通りにいかない時代になってきた感じがします。季節の変わり目。皆様、お変わりなくお過ごしでしょうか?
さて、NHKの番組(「目撃!にっぽん」「ウワサの保護者会」)で、僕が今行っている教育改革について紹介されることがありました。その中で、「風呂敷理論」という言葉が何度か出てきたので少し紹介しようと思います。
「風呂敷理論」とは、生徒が好きなことをとことん伸ばしていくと、一見関係ないように見える他の力も伸びていくことを表した言葉です。風呂敷を広げて、真ん中をつまんで持ち上げていくと他も上がっていく様子に例えたものです。これまでにも、同じようなことを言う先生も多く、昔からある概念のようです。
僕がこの発想をしたのは、ある心臓外科医の先生の話を聞いた時です。その先生は、ある特異な症例の心臓手術の第一人者でした。その先生は、特異な例を極めているわけですが、他の一般的な手術の技術も向上しているとお話しされていました。これを聞いて勉強も同じで、好きなことをどんどん伸ばすことで、他にもいい影響を与えるに違いないと感じたのです。
また、教育学の苫野一徳先生(熊本大学)によると、プロジェクトメソッドの創始者でデューイの一番弟子のキルパトリックが提唱した「直接的に達成される成果以上の自尊心ややり遂げる意志などといった反応(付随的反応)」が近しい考えだといいます。
よく「うちの子はゲームばっかりして」と嘆く声を聞きますが、なぜゲームがダメなんでしょうか。依存症の問題もあるので、簡単には言えませんが、少なくともその子の「好き」は何であっても可能性を秘めているものと捉えた方がいいと思います。
「好き」を探究に繋げるには、「好き」から「問い」をたくさん作る経験をしていくことが大切です。「世界ではどのようなゲームが人気か (What)」「ゲームを作るのにはどのような人が関わっているのか (Who)」「なぜゲームには依存性があるのか (Why)」のような「調べれば答えがわかるもの」から始めて、「答えのない問い」に繋げます。
僕は生徒たちに、「皆さんの好きなもので、世の中をもっとハッピーにするアイデアはありますか」という利他的な視点を投げかけることで、答えのない問いに広げています。ゲームは一人の世界に入ってしまうことが多いですが「世の中をもっとハッピーにする」を考えると他者の視点を考えるようになります。ここがパブリック・リレーションズでいう「目標設定」にあたります。自律した学びを起こすには、「問い」が目標になり、その解決に向けて学んでいくことを最初に意識することが大切です。
また、「作り手」の視点も感じることで、創造性も高めることができます。子どもたちの「好き」に教科の視点を加えてもいいでしょう。プログラミングから、シナリオ作り、キャラクターデザインなど各教科に一気に広がりそうです。このさまざまな役割を考えることが、パブリック・リレーションズでいうさまざまなステークホルダー(関わりのある人・もの)を理解することにつながります。
このように僕ら教師や大人ができることは、子どもたちの「好き」をよく観察して、どのような広げ方ができるかを考え、対話を通して子どもたちの思考を刺激することしかありません。探求を主体的な学びで進めるには「問い」を設定し、自分がどのステークホルダーになりたいかを考え、その他のステークホルダーと対話を通して協働し、目標達成に進んでいくという枠組みを理解することが大切です。
「ゲームが好き」は決してダメではなく、無限の可能性を秘めた素晴らしいものと捉え、子どもたちのやりたいことを達成させるのにパブリック・リレーションズの視点を入れて支援してあげましょう。