Column コラム

山本 崇雄

  • 横浜創英中学・高等学校副校長
  • 教育系コンサルタント

学校広報を「関係づくり」に変えるパブリック・リレーションズ(PR) ーーーAppleの広報戦略から学ぶ、次年度に向けた学校広報の再設計

2026.01.31

なぜ「広報戦略」や「マーケティング思考」が学校教育で必要なのか

 年が明け、あっという間に1月も終わろうとしています。中学・高校の先生方の中には、来るべき入試に向けて多忙な日々を送られている方も多いのではないでしょうか。

 一方で、少子高齢化がますます進む中、学校にとって「どう自分たちの教育を社会に伝え、理解者を増やしていくか」は、これまで以上に重要な課題となっています。

 今回はその問いに対し、パブリック・リレーションズ(PR)=関係構築の視点から、学校広報をどう捉え直し、どう行動につなげるかを考えてみたいと思います。

「学校の魅力って伝わっていない…」
「入学希望者が伸び悩んでいる…」
「地域との関係が弱い気がする…」

そんなことで悩んでいませんか?

  • 入試広報の成果が出にくい
     ⇨ 費用や時間をかけても応募者数が思うように伸びず、成果が見えにくい。
  • 保護者や地域とのつながりが弱い
     ⇨ 学校の教育方針や取り組みが十分に伝わらず、信頼関係が築きにくい。
  • 校内の実践が外に届いていない
     ⇨ 教職員や生徒が力を注ぐ実践が社会と共有されず、閉じた活動になっている。

 こうした課題は、単に情報を増やせば解決するというものではありません。
必要なのは、「学校の価値を誰と、どのように共有するか」という関係の設計です。

 僕自身、これまで複数の公立・私立の学校に勤務し、現在は管理職として広報に携わるなかで、パブリック・リレーションズの視点から学んだことを、現場での経験と重ね合わせながら自分なりにまとめてみたいと思い、この文章を書いています。

Appleを支えた「関係構築型の広報」──実践者として見た10年の学び

 僕は根っからのAppleユーザーで、ありがたいことに教育分野での実践を評価いただき、Apple Distinguished Educator(ADE)として認定されています。

 そしてこの10年間、PRの第一人者で当研究所所長の井之上喬さんとともに、「パブリック・リレーションズ(PR)の視点を教育現場にどう活かすか」を継続的に学び、実践してきました。

 そこで、僕なりの視点で、Appleの広報戦略の特徴をまとめ、学校の広報戦略にどう生かして行くかを探ってみまたいと思います。

<Appleの広報戦略>

  • Appleの広報における井之上氏の関与
     ⇨ 1984年のマッキントッシュ日本発表時、戦略的PR設計を担い、単なる製品発表ではなくそれまでの筆記文化からタイプライター文化への流れを作り“体験”を通じた価値理解を実現。
  • 重視されたのは関係構築の設計
     ⇨ 記者会見、ワークショップ、資料の日本語化、販売支援など、相手が納得し共感する接点を多層的に用意。
  • 一方的な情報発信ではない
     ⇨ 「理解してもらう」のではなく、「ともに理解し合う」ことを目的に広報を再定義したプロセス。

 このような広報のあり方は、教育における保護者・地域・生徒との関係づくりにも通じるものがあります。

「PR=宣伝」ではない。パブリック・リレーションズの本質

 PRという言葉は、日本ではしばしば「宣伝」や「広報」と同義で使われますが、実際にはもっと深い意味があります。パブリック・リレーションズ(PR)とは、目標や目的を達成するためにさまざまなステークホルダーとの関係構築を行う手法で、教育分野においては、学校と社会との関係を構築する営みそのものであると感じています。

<学校におけるPR>

  • 広報との違い
     ⇨ 情報を届けるのが「広報」、関係を築くのが「パブリック・リレーションズ」。
  • 学校におけるPRの意義
     ⇨ 教育理念や実践を“誰とどのように共有するか”という、根本的な問いに向き合う関係づくり。
  • 一方的ではなく、双方向の構造
     ⇨ 伝える・伝えられるではなく、共感し合い、共に育てる関係の構築。

この視点を持つことで、広報は“活動の外”にあるものではなく、教育の本質と直結する営みへと変わっていきます。

「伝える」ではなく「つながる」ための学校実践とは

Appleが社会に示したのは、技術革新だけでなく、「文化の提案」でした。
学校もまた、育てたい人物像や価値観を社会と共有する、文化的実践の場です。

私の勤務校である横浜創英中学・高等学校では、次のような取り組みを行っています。

<横浜創英中学・高等学校の広報戦略>

  • 教育関係者を招いた授業公開・研究発表会
     ⇨「OPEN SCHOOL」を開催し、全国から300名を超える教育関係者が集まり、本校の教育改革を発信。
  • 保護者が学校教育に参画する仕組み
     ⇨ 保護者が主催する子育て講演会や対話会を実施。保護者ボランティアが探究活動の助言者としても関与。
  • 生徒が自らの学びを社会に向けて発信する探究成果展示会
     ⇨「プロジェクトフェスタ」として中高合同で実施し、学びを可視化しながら社会とつながる経験を育成。
  • 地域と結びついたプロジェクト型学習の成果共有
     ⇨ 地元・大口通り商店街と連携した「町おこしプロジェクト」に取り組み、地域課題に向き合う実践を展開。
  • 生徒の言葉で「自分たちが主役だ」と発信する学校説明会
     ⇨ 学校運営を生徒に委ねていく文化を、当事者である生徒自身が語り、未来の仲間や社会に届ける。

これらの実践は、「伝える広報」ではなく、社会との信頼関係を育てる教育の一環として位置づけています。

次年度に向けて、広報戦略を“関係づくり”の視点から見直してみませんか?

学校にとっての広報は、ますます「信頼される関係の設計図」としての役割を担うようになってきています。

次年度に向けて、今の広報を次の視点で見直してみてはいかがでしょうか。

<新年度の広報戦略を見直す観点>

  • 成果ではなく、プロセスを発信する
     ⇨ 数字や実績だけでなく、生徒がどう学び、どう成長しているかを伝える。
  • 情報発信から、対話と共創へ
     ⇨ 説明型ではなく、参加型・体験型の広報へと転換する。
  • 学校・保護者・地域が“共育”する仕組みを整える
     ⇨ 教育の担い手として、地域や保護者と共に学びの土台を築く。

今ある広報に「関係構築」という視点を加えるだけで、学校の未来は大きく変わります。
次年度に向けて、広報の再設計を始めてみませんか?

その第一歩が、社会に信頼され、応援される学校づくりにつながっていきます。

 これまで述べてきたように、広報は単なる発信活動ではなく、学校と社会の間に信頼と共感の関係を築く営みです。しかし、その「関係づくり」もまた、一度で完結するものではありません。むしろ重要なのは、活動を評価し、改善を重ねながら継続していく姿勢です。

 次回は、パブリック・リレーションズの実務で活用されている「ライフサイクル・モデル(9ステップ)」を、学校広報に当てはめて具体的に考えてみます。