Column コラム
山本 崇雄
- 横浜創英中学・高等学校副校長
- 教育系コンサルタント
「関係の質が学びを変える」―ライフサイクルモデルと次期学習指導要領の論点整理から考える、教育のこれから―
2026.01.19
新年最初のコラムになります。皆さまにとって希望と出会いに満ちた一年になることを願っています。本年もPublic Relations for Schoolをどうぞよろしくお願いいたします。
僕は日々、子どもたちや先生方と向き合う中で、「関係性の質」が学びと成長を左右すると強く感じています。ここで言う関係性は、ただ仲良くすることではありません。“何のために”を共有し、互いの声を聴き合い、必要ならやり方を変えながら、前へ進む関係のことです。
僕が捉えるパブリック・リレーションズ(以下PR)も、まさにこれです。PRとは「関係構築を通じて、目標達成を最短距離で目指す活動」。そしてそれを支える核が、倫理観/双方向性コミュニケーション/自己修正の3点だと考えています。
ライフサイクルモデルは「授業改善」と相性がいい
PR理論の中でも、学校にそのまま移植できるのが自己修正型ライフサイクル・モデルです。目標→情報収集→分析→目的設定→ターゲット→戦略→実施→評価→修正、という循環を回し続け、質を上げていく考え方です。
そして学校は本質的に「試行錯誤の連続」です。授業も学級経営も、計画通りにいかないことの方が多い。だからこそ、うまくいかなかったことを責めるのではなく、次の一手に変える“自己修正の文化”が学校の力になります。
ライフサイクルモデルを学校現場に当てはめる具体例
ここでは、どの学校でも起こりやすいテーマで示します。
例:学年で「授業中の対話が続かない」課題を改善する(2か月プロジェクト)
「ペアや班にしても雑談になり、学びが深まらない」「一部の子だけが話して終わる」──よくある悩みです。これをライフサイクルに沿って“回す”と、現場は動かしやすくなります。
(1) 全体目標(ゴール)を掲げる
ゴール例:
- 「授業で“考えが更新される対話”が増える学年にする」
- 指標例:単元末アンケートで「友だちの意見で考えがいい方向に変わった(自己修正できた)」割合を 50%以上 に
(2) 情報収集・現状分析(リサーチ&シチュエーション)
収集例(負担が少ないものから):
- 生徒と対話(あるいはアンケート)(3分):「話し合いで困ることは?」
- 観察メモ:「誰が話しているか/沈黙はいつ起きるか」
- 学年会での事実共有:「班活動が崩れる場面の共通点」
分析の観点:
- “対話の型”が曖昧/評価が不明/安心して言えない空気…など、原因仮説を立てる
(3) 目的(この取組で何を実現するか)を設定
目的例:
- 「生徒が“安心して意見を出せる土台”を整え、対話が学びに接続する状態をつくる」
- ※ゴール(成果)に至るための“関係の改善目標”を置くのがコツ
(4) ターゲットとチャンネルを設定(誰に、どこで)
ターゲット例:
- 生徒(全体/発言が少ない層/話し過ぎる層)
- 教員(学年団、特に複数教科で支援方法の足並みをそろえる)
- 保護者(学校の取り組みの理解を深める)
チャンネル例:
- 学級活動、授業内ミニふり返り、学年通信(Padletなどネット形式)、保護者会、Classroom/Teams など
(5) 最も効率よく最大効果の戦略を構築
戦略例(多忙な学校向け“省エネ設計”):
-
- 対話の型を共通化(例:主張→理由→問い返し、の短い型)
- 安心のルールを共創(例:否定しない、言い直しOK、沈黙OK)
- 評価を“量”より“質”へ(例:発言回数ではなく「問い返し」「根拠」など)
(6) 実行プログラムを作る
2か月の最小構成例:
- 1週目:学級活動で「対話のルール」作り/短い練習
- 2〜5週目:各教科で週1回だけ“型つき対話”を入れる
- 毎週:先生は観察メモ1分、学年会などで5分共有
- 6〜8週目:生徒が司会・問い返し役を担当(自走化)
(7) 実施
- ここで大事なのは「完璧にやる」より、同じ型で“少しずつ”回すこと
(8) 結果・情報の分析・評価
評価例:
- 生徒アンケート(同じ設問で比較)
- 代表授業を相互参観して“対話が深まった瞬間”を記録
- 「沈黙の質が変わった」「問い返しが増えた」など質的データも残す
(9) 修正して次に活かす
- 例:雑談が増える→「問いカード」(思考を深める様々な問いをカードにしたもの)を配布して問い返しを支える *付録参照
- 例:固定メンバーで停滞→席替えではなく「役割ローテ」を導入
- こうして、次の単元・次の学年へ“改善の資産”が残る
次期学習指導要領の議論とも重なる
文部科学省の教育課程企画特別部会の「論点整理」では、次期学習指導要領に向けた方向性として、「主体的・対話的で深い学び」の実装を第一の方向性とすることが示されています。さらに、デジタル学習基盤の活用が道半ばであること等を踏まえつつ、情報活用能力を探究的な学びを支える基盤と位置づけ、抜本的な向上を図ることも明記されています。そしてこの論点整理は、2025年9月25日に取りまとめられたことが文部科学省ページで告知されています。
僕はここに、PR的視点が効くと思っています。なぜなら、「対話」も「主体性」も、関係の質が上がらなければ“形”だけになりやすいからです。ライフサイクルモデルは、関係づくりという目標達成のために重要な土台を整え、評価し、修正する。つまり、「主体的・対話的で深い学び」を“実装”するための、現場向けの運転手順になり得ます。
2026年に寄せて
教育に求められるのは、知識の伝達だけではなく、子ども自身が「目標や目的意識を持ち」学ぶ力を育てること。そしてそれは、関係性の質を高める営みそのものです。倫理観に支えられた双方向性コミュニケーションと、自己修正を回し続ける学校へ。僕自身も、子どもたちと一緒に関係を育み、学びを深める旅を続けていきたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
付録「問いカード」の例
1) 「問い返し」カード(どの教科でも使える)
- 「今の意見を、一言でまとめると?」
- 「それって、つまり 〜ということ?」
- 「そう思った理由は?」
- 「例で言うと、どんな場面?」
- 「反対の立場から言うと、どうなる?」
- 「どこまでが事実で、どこからが意見?」
- 「その根拠は、どこから言える?」(教科書/資料/経験 など)
- 「条件が変わったら結論も変わる?」(いつ/どこ/誰 が変わると?)
2) 「深める」ためのカード(“なるほど”で止まらせない)
- 「それは、なぜ大事なの?」
- 「それって、何と比べて言ってる?」
- 「今の意見の弱点はどこだと思う?」
- 「別の意見とつなげると、どう整理できる?」
- 「共通点は? 相違点は?」
- 「この話し合いの結論を、一段上の言葉にすると?」(抽象化)
- 「今日のテーマの本質は何だろう?」
3) 「整理する」カード(話が散る班に効く)
- 「いま話しているのは、結論?理由?例?」
- 「論点は A と B のどっち?」
- 「今の話を ホワイトボードに3語で書くなら?」
- 「一回、合意できていること/まだ決まってないことに分けよう」
- 「この班の結論は “〜だから〜” の形で言える?」
4) 「全員参加」をつくるカード(沈黙・偏りに効く)
- 「まだ話してない人の意見を、1人1回聞こう」
- 「“賛成”の人、理由を1つずつ」
- 「“心配”な点がある人、1つ言ってみて」
- 「いまの意見に +1(付け足し)できる人?」
- 「“わからない”はOK。どこがわからないか言ってみて」
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山本 崇雄
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