Column コラム

山本 崇雄

  • 横浜創英中学・高等学校副校長
  • 教育系コンサルタント

価値ある学校改革を、みんなで進めるために──“PR的思考”のすすめ

2025.11.24

 

僕が大切に思うのは、学校という組織が「変わろう」「改革しよう」と意思を固めたとき、最も大切なのは「誰が、何のために、どんな未来を目指すのか」という最上位の目標(=ミッション)を、教員・職員・保護者・子どもといったステークホルダーが、共通理解できているかどうか、ということです。

にもかかわらず、そこが曖昧であったり、各教員がそれぞれ「こういう意味だろう」「こうすべきだろう」と解釈を分けてしまうと、手段や日々の活動がバラバラになり、改革どころか疲労・迷走につながってしまう。まさに「声の大きな人の解釈で進んでいき、異なる意見が切り捨てられ、苦しんでしまう教員が出てしまう」状況は、この価値共有・合意プロセスが十分機能していないときに起こります。

そこで、僕の考える「パブリック・リレーションズ(以下PR)」の視点が、改革を進める学校にとって不可欠だと思う理由を、三つのエッセンスに沿って整理します。

1.倫理観 ―“人を大切にする”という基盤

まず、PR活動の根幹には「倫理観」があります。「パブリック・リレーションズ」とは、“個人や組織体が最短距離で目標や目的を達成する、『倫理観』に支えられた『双方向性コミュニケーション』と『自己修正』をベースとしたリレーションズ(関係構築)活動”です。

この中の「倫理観」には、組織が目標を追う過程で、「人を大切にする」という姿勢が欠かせません。つまり、教員・子ども・保護者・地域等、関わるステークホルダー一人ひとりを軽視せず、その考え・背景・立場を尊重しながら進めるということです。

例えば、改革を急ぐあまり「結果を出さなければ」「効率化をしなければ」という声が強くなると、「考え方が違うならこの職場から去ればいい」という発想が生まれがちになります。確かに、意見が合わない・理念が異なる教員を整理する方が速やかに進むようにも見えるかもしれません。ですが、それでは学校という場が持つ「多様性」や「対話を通じた成長」の可能性を放棄してしまうことになります。多様な意見・価値観があるからこそ、最上位の目標が揺るぎないものになっていく。つまり、異なる解釈・違う視点を抱えている教員が参加できるような倫理観に支えられた場づくりが、改革を本質的に進めるうえで鍵になります。

2.双方向性コミュニケーション ―合意と理解のプロセス

次に、「双方向性コミュニケーション」です。目標を合意したはずなのに、解釈が教員一人ひとりで異なってしまう状況は、まさにこのプロセスが欠けている典型です。トップダウンで「こういう目標です」「こう進めます」と方向を示しても、受け手である教員が「自分はこう捉えている」「あれ?そういう意味じゃない」と感じたまま活動を進めると、現場でのズレが生じます。

僕はPRの視点から、学校の目標設定・組織運営にも必ず「ステークホルダーとの対話・理解・確認」というプロセスを入れるべきだと考えています。例えば、教員会議で目標を確認するだけでなく、各教員がその目標をどう捉え、どのように日々の手段に落とすかを対話形式で話し合う。さらに、教え子・保護者・地域との関係性からのフィードバックも得ながら、目標の意味・目的を深めていく。「ああ、そういう意味だったのか」「自分はこう捉えていたけど、なるほどこの解釈もあるな」といった共有ができてこそ、手段がバラバラにならず、「声の大きな人だけが進める」状況にも歯止めがかかります。

この点は、僕が紹介している〈自己修正〉の考えともつながります。たとえば、国連のSDGsの策定プロセスでは、多くのステークホルダーが参画し、双方向のコミュニケーションを通じて合意を形成してきたことを以前紹介しました。

 学校もそれに倣い、「最上位目標=学校・教員・子ども・保護者・地域みんなが“OK”できるもの」にするため、対話を丁寧に設計できることが理想です。

3.自己修正 ―目標・手段を見直し、アップデートし続ける

最後に、「自己修正」です。目標を合意し、手段もだいたい共有して動き出しても、環境・状況・人が変わっていくのが学校という場です。だからこそ、立ち止まって「この目標で正しかったか/手段は適切か/進め方はみんな納得しているか」を振り返り、必要なら修正をかけるというサイクルが不可欠です。

自己修正とは「表面的に相手に合わせる変更・調整」ではなく、「客観的に自らを見つめ、深いところで自らを変える」ことを指しています。

例えば、改革推進中の学校で「これが手段です」と決めた活動が、途中で教員の中に疲弊を生んでいたり、子どもたちが本来意図された目標感を持てていなかったりするなら、「どこがズレているか」「そもそも目標の意味が教員間で揃っていたか」「手段が多様な教員の意見を生かしていたか」を改めて対話局面で取り上げることが重要です。

このように、「倫理観 → 双方向性コミュニケーション → 自己修正」という三段階が、学校改革におけるPR的関係構築を支える柱だと僕は考えています。

実践のために意識したい3つの場面

最後に、具体的な場面で「ここを意識するとよい」というポイントを挙げておきます。

<最上位目標設定の段階>

 ・最上位目標を作るとき、教員全体・職員・保護者代表・子ども代表などできるだけ多くのステークホルダーが関わっている仕組みを作る。(意見を言える場面の保障)

 ・「この目標は何のために/誰のために/どういう価値を目指すのか」を言語化し、互いに理解できるように説明会やワークショップなどを設ける。

 ・目標が決まったあと、「それぞれがどう解釈しているか」を一人ひとり機会を設けて聞く。そこに「解釈のズレ」がないかを早めに可視化する。

<手段・実践の落とし込み段階>

 ・目標に対して「私(自分たち)はこういう手段・活動で寄与できます/したいです」という小グループ対話を実施。

 ・教員それぞれの強み・背景・価値観を尊重し、手段が均一になりすぎないよう“複数の道”を並列で設計。

 ・進行中、教員から「この手段はちょっと違和感があります」「私にはやりづらいです」といった声を出せる仕組み(定例ミーティング、振り返りカード、アンケート等)を整える。

<振り返り・修正の段階>

 ・定期的に「目標は変わっていないか/手段にズレはないか/参加者の納得感はどうか」を振り返る場を設ける。

 ・その場では、声の小さい・表に出にくい教員の視点を丁寧に聞くファシリテーションが重要。

 ・必要があれば、目標文言の補足・補正、手段の並び替え、役割の見直しを行う。これが「自己修正」です。

 ・修正を行ったら「なぜ変えたか/どのように変えたか」を透明に共有し、合意を再確認する。

改革を志す学校こそ、こうしたPRの視点を丁寧に実践していくことで、「声の大きな人だけが進めて、異なる意見が切り捨てられてしまう」ようなリスクを減らし、むしろ「多様な意見が活きる」「教員一人ひとりが納得感を持って動ける」組織へと変わっていけると思います。目標が本当に“かかわるステークホルダー誰もがOK”できるものになっていれば、どんな手段をとってもその目標に帰着できます。そのための関係構築活動=パブリック・リレーションズを、学校現場で意図的にデザインしていきましょう。