Column コラム

Public Relations for School 公認ファシリテーターの実践紹介

対話が「社会に届く実感」をつくる――SDGs企業訪問で起きた、生徒の自己修正

2026.03.06

パブリックリレーションズ for school 公認ファシリテーターの大槻 侑杜(聖和学園高等学校)です。今回はパブリック・リレーションズ(以下PR)の視点である主に「双方向性コミュニケーション」と「自己修正」の観点から、社会とつながる学びの実践を紹介します。

「社会とつながる学び」とはどんな学びでしょうか。教育ではよく耳にする言葉ではありますが、それが生徒の意識や行動にどのような影響を与えるのかを実感する機会はそう多くありません。その中で自校の総合的な探究の時間の一つとして実施している「SDGs企業訪問」というプログラムの実施による生徒の変容をお伝えできればと思います。

このプログラムは企業から事前に提示された問いに対して、生徒がチームでSDGsの視点を持って課題解決策を提案するという内容です。PRの視点が生徒と社会の関係性をどのように変えていくのかを辿っていきたいと思います。

数年前、SDGsが教育現場で広く注目され、私の担当教科である英語の教科書や探究のテーマとしても多く取り上げられていました。私は当時SDGsを理解することに留めず、行動につなげるための目標や手段にするにはどうすれば良いかを模索していました。

社会の側にも変化が起きていました。多くの企業がSDGsを経営方針や事業戦略に反映させ、環境・社会・ガバナンスの観点から持続可能な企業活動を対外的に発信するようになっていたように思います。企業ホームページなどでもSDGsとの関連が明記され、社会的責任の一環としての情報開示が進んでいました。私はそこに、学校と社会をつなぐ大きなチャンスがあると考えていました。

SDGsを社会とつながるためのツールとして捉え、生徒と企業が対話する場を創ることができるのではないか。そう考えて立ち上げたのが、「SDGs企業訪問」です。自校でこの取り組みを推進して今年度で5年目を迎えました。今年度の実施にあたり、企業との事前打ち合わせにおいて、無理を承知で生徒の提案を部分的にでも実際に取り入れていただくことをお願いし快諾いただきました。複数年にわたって継続的にパートナーシップを築き、生徒の学びに伴走していただいている企業との信頼関係が幸いしました。

自分たちの提案が社会に実装されるかもしれないということは、取り組みの姿勢や意識に大きな変化をもたらします。生徒たちは自分たちで問いをブレイクダウンし、仮説を立て、先行事例を調べ、データを集め、丁寧に提案資料を練り上げていったのです。複数の企業から提示された問いは例えば「○○(動物)を保全するために高校生ができることは」「再生素材で作られた新商品の魅力をどうしたら伝えられるか」「地域の特に若年層の来店をどう促進できるか」など、現場の困りごとを内包した正解のないリアルな課題でした。生徒はSDGsと高校生ならではの視点を持って提案を磨き続ける姿がありました。いくつかの提案内容は、店頭イベントや商品展示のデザインの一部に実際に反映される方向で検討していただけることになりました。このとき、自分たちのアイディアが社会に出るということ、そして自分たちの声が社会に届いたという実感が生徒の間に広がっていったのを感じました。

日本財団が行った18歳意識調査によると、「自分の行動で社会を変えられると思う」と答える日本の若者は、他国に比べて顕著に低い割合にとどまっています。そのような中で、自分の行動が社会に接続する可能性を感じられたという経験は大きな価値があったのではないかと思っています。

加えてこの学びは発表して終わりではありませんでした。ある企業からのフィードバックの中には、予算面、イベント全体の構成、他グループとの整合性など深い背景まで踏み込んでいただいたものもありました。生徒はそれをきっかけに再調整・再提案を行っていきました。このプロセスがPRの視点で言う自己修正の実践です。提案して終わりではなく、起点として捉えて再構築する。そこに生徒と企業の関係性が協働へと近づいていったように思います。

このように双方向性コミュニケーションや対等な対話が実現するためには企業に「パートナー」として関わってくいただくことが不可欠です。生徒へ提示する問いや関わり方については企業と丁寧に目線合わせを行いました。生徒の伸びしろのあるアイディアに耳を傾け、可能性を感じ取り、建設的なフィードバックをくださる姿勢に私たちは救われました。このような関係性が生徒の学びの環境となり、PR視点の実現にもつながったのだと実感しています。

とはいえ、すべてが順調だったわけではありません。問いの粒度、生徒への事前の伝え方などまだまだ改善の余地は多く残されています。問いの背景にある前提知識の共有が不十分であることもありました。また企業訪問の前後の設計に比べて、最中にどのような関係を築けるかという視点が手薄だったと感じています。企業にも生徒にも無理のない期待値とゴールの共有があってこそ双方向性は成立するということをあらためて痛感しています。

最後に、私はこのSDGs企業訪問という実践を通じて、教育のなかにパブリックリレーションズの視点を落とし込み、学校と社会との接点をつくることを意識してきました。自分のちょっとした興味や関心、そして問題意識が社会や誰かの役に立つかもしれない、自分の行動が周りや社会を変えるかもしれない、その実感こそがSDGsという大きな目標をジブンゴトとしてとらえる最初の一歩であり、学校と社会をつなぐことにつながるのではないでしょうか。