Column コラム
山本 崇雄
- 横浜創英中学・高等学校副校長
- 教育系コンサルタント
PR(パブリック・リレーションズ)の視点で子育てを考える④子どもとの約束について
2022.07.20

僕が学校や講演などでよく聞かれる子育ての悩みについて、PRの視点で考えていくシリーズの第4回目です。
Q 子どもが全く勉強をしないので、心配で「今度のテストで平均点以下だったらお小遣いを減らす」という約束をしました。このような約束はしても大丈夫でしょうか?
A 勉強だけでなく、何についてでも、約束の仕方が重要です。間違った方法で約束をすればするほど主体的な判断ができなくなります。大切なのは子ども自身が目標設定をすることと、親はそれを達成するための援助をするという考え方です。
今回の質問にはいくつかの問題点が含まれています。
1つは「平均点」です。中間期末考査などテストで、「平均点」が出されることはよくあります。平均点を出すと、必ず平均以上と平均以下を生み出します。クラスや学年の全ての子どもたちがどんなに頑張っても、「平均点以下」は生まれます。このことからも、平均点を出すことで、不幸な子どもたちを産んでいることがわかります。また、クラスの平均点を出すと、「A組よりB組の方が優れている」「A組はできないクラスだ」と言ったレッテルを子どもたちは無意識に感じて、自己肯定感を下げたり、勉強ができないのをクラスのせいにしたりするようになります。これを読んでいる先生方で、「誰も取り残さない教育」「みんなを大切にする教育」を目指すのなら、平均点を子どもたちに伝えるのをすぐにやめてほしいと思います。
ですから、「平均点以下だったら・・」という約束は、本人がどんなに頑張っても「平均点以下」になる可能性があるので、適切な目標設定とは言えません。
次に、勉強について心配なことはわかりますが、心配なことを言えば言うほど、子どもたちはそのことについて主体的に考えられなくなります。矛盾して聞こえるかもしれませんが、勉強してほしければ、「勉強しなさい」と言うのを止めることから始めましょう。一度、「勉強しなさい」と言って、勉強を始めると、「勉強しなさい」と言わなければ勉強しない子になります。これから先、ずっと「勉強しなさい」と言い続けなければならなくなります。「〜しなさい」と言い続ける親子関係は決して良好なものにはなりません。
では、どんな対話をすれば良いかというと、子どもたちが今の自分を俯瞰してみる「メタ認知能力」をつけたり、どんな自分になりたいかという「目標設定」できるようになる援助をしていく対等なコミュニケーションが重要です。
メタ認知能力を育てるには、「今、わからない授業ってあるの?」「どの勉強している時が楽しい?」といった質問は自分の強みや弱みを意識させることができます。そこから、「どんな力をつけたらその授業が楽しくなる?」「その教科のどんな力をつけたい?」という「目標設定」につながる対話をしていきます。そして、それに向けて行動するのは子どもたち自身であるということです。「勉強する」「勉強しない」を天秤にかけて、どちらがよりなりたい自分につながるか。その問いかけだけを繰り返すだけです。そして「勉強しない」を選択しても決して怒る必要はありません。「勉強しない」で得られる未来に責任を持つのは自分自身であるという意識を繰り返し持つことで、子どもたちはより「なりたい自分」とそのための「選択」を考えるようになるのです。こういった対話の過程で生まれる約束は子どもの主体性を育てる約束になるでしょう。
パブリック・リレーションズでは、「目標設定」が重要です。目標達成のために、さまざまな選択を試し、「自己修正」しながら目標達成していきます。その流れを子育てにも応用していきましょう。PRの対話の手法について、さらに具体的に知りたい場合は、PR for Schoolの教材がお手伝いできると思います。リアルな社会の実例をもとに、対話の具体例を学ぶことができます。ぜひお気軽にお問合せください。
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