Column コラム
山本 崇雄
- 進徳女子高等学校校長
- 教育系コンサルタント
ことばが未来をつくる——「何を伝えるか」より「どう届くか」を考える
2021.01.07
これまで当たり前だと思っていたことが、実は決して当たり前ではなかった。2020年は、そんなことを何度も感じた一年でした。人と会うこと、学校に通うこと、友人と話すこと、同じ場所で時間を過ごすこと。日常の一つひとつが、これほどありがたいものだったのかと気づかされた方も多かったのではないでしょうか。
新しい年を迎えても、新型コロナウイルスの影響は簡単には収まりそうにありません。先の見えない状況が続くと、不安になったり、時には絶望的な気持ちになったりすることもあります。それでも、これからの未来は誰かがつくってくれるものではありません。こんな時代だからこそ、僕たち一人ひとりが当事者として、自分たちのありたい未来を考えていくことが大切なのだと思います。
そのとき、僕が大切になると考えているのが、パブリック・リレーションズにおける「双方向性コミュニケーション」です。
ことばは、相手に届いて初めて意味を持つ
双方向性コミュニケーションというと、「お互いに話すこと」を思い浮かべるかもしれません。でも、僕はそれだけではないと思っています。
自分が何を伝えたいかだけではなく、相手にどう届くのかを考える。そのために相手の声を聞き、反応を受け取り、必要なら自分の伝え方を変えていく。そこまで含めて、双方向性コミュニケーションなのだと思います。
そこで大切になるのが、「ことばを選ぶ」ということです。
ことばには、人を励ましたり、安心させたり、新しい一歩を踏み出すきっかけをつくったりする力があります。その一方で、何気なく発した一言が、相手を傷つけたり、不安にさせたりすることもあります。
難しいのは、ことばには形がなく、自分の口から出たことばが、相手の中でどのような形になって届いたのかを見ることができないことです。
だからこそ僕は、学校でも「どんなことばを選ぶのか」を、生徒たちと一緒に考えていきたいと思っています。
「どんな英語を使いたいですか」
僕が英語の授業で、生徒たちによく投げかけている問いがあります。
「どんなことば、どんな英語を使いたいですか」
英語の授業というと、正しい文法や語彙を身につけ、言いたいことを正確に表現することが大切だと思われがちです。もちろん、それは必要です。でも、ことばはテストで正解するためだけにあるわけではありません。英語も日本語も、誰かと関わるために使うものです。
相手を笑顔にすることばもあります。勇気づけることばもあります。一方で、相手を不快にさせたり、怖がらせたりすることばもあります。
どんなことばを使うかは、自分で選ぶことができます。
だから僕は、「正しい英語を使えるか」と同じくらい、「その英語を使って、相手とどんな関係をつくりたいのか」ということを大事にしたいと思っています。
もし、ことばに形があったなら
以前、子ども園の園児たちに向けて、生徒が英語の絵本をつくるという活動をしたことがあります。そのとき、生徒たちに紹介したのが、おーなり由子さんの『ことばのかたち』という絵本です。
この本は、
「もしも話すことばが、目に見えたら」
という想像から始まります。
もし自分たちが話していることばに、本当に形があったらどうでしょう。
やさしいことばは、花のような形をしているかもしれません。誰かの気持ちを明るくすることばなら、光のように見えるかもしれません。一方で、人を傷つけることばには、触れれば痛みを感じるような棘があるかもしれません。
もし、自分が今から口にしようとしていることばに鋭い針のような形が見えていたら、僕たちは同じようにそのことばを使うでしょうか。
おそらく、一度立ち止まると思います。
この絵本を読んでいると、普段は見ることのできない「ことばの形」を想像することで、ことばが相手に与える影響を自然に考えることができます。
ことばには形がないから難しい。でも、形がないからこそ、相手にどんな形で届くのかを想像することが大切なのだと思います。
『ことばのかたち』は、ことばを「伝達の道具」としてではなく、人と人との間に何かを生み出すものとして捉え直させてくれる絵本です。子ども向けの絵本ではありますが、大人が読んでも、自分が日頃使っていることばについて考えさせられます。
「何を言ったか」ではなく「どう届いたか」
僕たちは、ときどき「そんなつもりで言ったわけではない」と言います。
もちろん、本当に悪意がないこともあります。でも、コミュニケーションを考えるうえでは、自分がどんなつもりだったかだけでなく、相手にどう届いたのかを見ることも必要です。
励ましたつもりの「頑張って」が、相手にはプレッシャーになることもあります。何気なく言った冗談が、相手にはずっと忘れられないことばになるかもしれません。反対に、自分ではたいした一言ではないと思っていたことばが、その人にとって大きな支えになることもあります。
だから、ことばを選ぶということは、単に丁寧な表現を使うことではありません。そのことばの先にいる人を想像することなのだと思います。
「このことばを受け取った人は、どんな気持ちになるだろう」
そこまで考えることができれば、使うことばは少し変わってくるはずです。
僕たちが選ぶことばが、未来をつくる
先の見えない時代には、不安から強いことばを使ってしまったり、自分とは違う考えを持つ人に厳しくなったりすることがあります。だからこそ、今、自分がどんなことばを選んでいるのかを、ときどき立ち止まって考えることには意味があると思います。
このことばは、相手にどんな形で届くだろう。このことばによって、その人との関係はどう変わるだろう。そして、このことばは、自分たちがつくりたい未来につながっているだろうか。
一つのことばだけで、世界が大きく変わるわけではないかもしれません。それでも僕たちは毎日、たくさんのことばを誰かに渡しながら生きています。その積み重ねが人との関係をつくり、教室の空気をつくり、学校をつくり、やがて社会のあり方にもつながっていきます。
ことばには形がありません。でも、ことばによって、人と人との間には確かに何かが形づくられていきます。
もし、ことばに形があるとしたら、誰もが少し幸せになれることばは、いったいどんな形をしているのでしょうか。
僕自身も、生徒たちと一緒に考え続けていきたい問いです。
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