Column コラム

山本 崇雄

  • 横浜創英中学・高等学校副校長
  • 教育系コンサルタント

生徒との関係を編み直す9月――パブリック・リレーションズの視点で考える生徒との対話

2025.08.04

1.夏休み明けは「関係再構築」のチャンス

 

 長い夏休みを終え、生徒たちが学校に戻るこの時期は、クラス運営や生徒との関係性を再構築する絶好の機会です。中高生は夏休みを通して、部活動や家庭での過ごし方、進路学習など、さまざまな体験をします。しかしその過ごし方や感じ方は人それぞれで、中には「特に何もなかった」「楽しいと感じられなかった」という生徒や、新学期に不安を抱えたまま登校してくる生徒もいます。

 夏休み明けの対話では、こうした多様な背景を持つ生徒に配慮し、一律に「楽しかった?」と尋ねるのではなく、誰もが答えやすい形を工夫する必要があります。パブリック・リレーションズの視点でいえば、これは夏休みに変化、あるいは成長した生徒と教師との「関係再構築活動」であり、ここで築かれる信頼感がその後の学校生活や学級運営の基盤になります。

 

2.「双方向性コミュニケーション」で多様な声を拾う

 

 夏休み明けの対話は、教師が生徒に「語る」のではなく、「聴く姿勢を示す」ことが中心です。特に、生徒の間には「楽しい思い出がある子」と「そうではない子」との温度差が生まれがちなので、どちらにも配慮した問いが必要です。

例えば:

「夏休みで印象に残ったことはあった?」(楽しい・楽しくないを問わない)

「休みの間に新しく気づいたことや考えたことは?」

「今の気分をひと言で言うと?」

 

 さらに、答えが一つに決まらない探究的な問いや哲学対話的な問いを取り入れると、生徒がそれぞれの考えを自由に出しやすくなります。

 

「『休む』ってどういうことだと思う?」

「夏休みが長いのはいいこと?短いほうがいい?」

「自分と違う意見を聞くとどんな気持ちになる?」

 

 これらの問いは、生徒同士の違いを認め合うきっかけにもなり、クラスに「安心して話せる空気」を作り出します。

 

3.元気のない生徒や言語化が苦手な生徒への配慮

 

 一方で、言葉で自分の気持ちを表現するのが苦手な生徒も少なくありません。そうした生徒への手段として、レゴブロックや折り紙、色紙などを使った非言語的な表現を取り入れることが有効です。

 例えば、生徒に「今の気持ちを色や形で表してみよう」と伝え、自由に作品を作ってもらいます。直感的に作ってから「なぜこの色や形にしたのか」を振り返って言語化する方法や、逆に「言葉で表した気持ちを作品にする」方法もあります。手を動かしながら自然に思考が追いついてくる過程を通して、言葉では言いにくい心情が表面化することもあります。

 この活動は「話したくない」「話せない」生徒への配慮になるだけでなく、視覚的・触覚的な体験を通して感情を整理する機会にもなります。また、作品を見せ合うことで、生徒同士が互いの違いや共通点に気づきやすくなり、クラスに共感的な空気が広がります。

 

4.「自己修正」と「倫理観」で誰も取り残さないクラスへ

 

 こうした対話や活動を通じて得られた情報は、教師がクラス運営を「自己修正」するための重要な材料になります。例えば、生活リズムが崩れている生徒が多ければ朝の時間をゆったり始める、進路不安を抱える生徒がいれば個別に面談を設定するなど、生徒の状況に応じて学級運営を柔軟に変えることが可能です。

 また、対話を通して「誰も取り残さない」という姿勢をクラス全体で共有することが重要です。哲学対話的な問いを使うことで、生徒同士が他者の立場を理解する力を育てることができます。

 

「困っている人を見たら、どんなふうに声をかけたい?」

「『みんな同じ』と『一人ひとり違う』、どっちがいい?」

「正しいって、誰が決めるんだろう?」

 

 教師が「違いを認める姿勢」を示しながら、倫理観に支えられた対話を積み重ねることで、生徒は「ここでは自分の気持ちや考えを出していいんだ」と感じるようになります。それが結果として、安心できる学級、誰も取り残されない学校づくりにつながるのです。

 夏休み明けは、教師と生徒にとって新たなスタートを切る絶好の機会です。この時期に生徒一人ひとりの声に丁寧に耳を傾け、安心できる学級の雰囲気を整えることは、単なる「新学期の導入」ではなく、これからの学びや人間関係の基盤を築く営みです。パブリック・リレーションズの視点から見れば、この時期の対話はまさに「関係構築活動」の最初のステップであり、双方向性コミュニケーションや倫理観を意識して取り組むことで、誰も取り残さない学級づくりが可能になります。夏休み明けという特別な節目を大切にし、生徒との関係を改めて結び直すことが、教師にできる最も効果的な関係構築であり、その後の学校生活をより豊かにする力になると僕は考えています。