Column コラム
山本 崇雄
- 横浜創英中学・高等学校副校長
- 教育系コンサルタント
学校教育における無意識の排除とDE&Iの重要性:PRの視点から考えるインクルーシブな学び
2024.11.12

以前、木村泰子さんと対談した際に、「廊下は右側を歩きましょう」という掲示がもたらす影響について話し合いました。この掲示の裏にある「目的」や、それに伴う「無意識の排除」が議論の焦点となり、「一部の子どもたちが取り残される可能性があるのではないか」という視点が共有されました。この「右側を歩く」掲示について、皆さんはどのように感じるでしょうか?あるいは、私たちが無意識のうちに誰かを排除してしまっていることに気づいているでしょうか?
群馬大学の高井ゆと里准教授によれば、このように「ある基準を当然のように受け入れること」で無意識に人を排除する現象は、「構造的排除」と呼ばれます。社会が特定の人間像を標準とすることで、その枠から外れた人たちは見えにくくなり、排除の構造が生まれます。先述の、「廊下は右側を歩きましょう」という掲示は、漢字が読めない子どもや左右の区別が難しい子どもにとって、自然と行動しづらいものです。また、「右側を歩く」という手段が、「人とぶつからないように歩く」という本来の目的を覆い隠し、意図しない排除を生み出している可能性もあります。
このような視点で学校現場を見ると、実は多くの「構造的排除」が存在していることに気づきます。例えば、一斉授業では、すべての子どもが同じペースで学ぶことが前提となっているため、学力や学び方の違いに応じた配慮が難しくなっています。その結果、授業のペースが合わない子どもたちは、例え「〜できない子は教室から出ていけ」と言わなくても、無意識のうちに学びから疎外され、やがて学校生活自体にも居心地の悪さを感じるようになる可能性があります。
また、テスト偏重型の評価方法にも「構造的排除」の側面があります。テストの点数に基づく評価は、認知能力以外の部分で優れている子どもたち、例えば協調性や忍耐力、思考力などが評価対象から外れることがあるためです。私たちが子どもたちを評価する際には、テストで測りきれない力にも目を向け、広い視点からその成長を支えることが大切です。
さらに、物理的な排除も見過ごせません。たとえば、学校のトイレは、多様な性自認を持つ子どもたちにとって使いにくいケースが多く、LGBTQ+の子どもたちが安心して利用できるトイレの設置は急務です。性別にとらわれないトイレ環境を整えることも、子どもたちの学びやすい環境づくりの一環といえるでしょう。
これからの学校教育を考える上で、私たちは過去に見過ごされてきた排除の仕組みを見直し、DE&I:ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括)の視点からの改革を進める必要があります。この改革が進むことで、すべての子どもたちが自身の可能性を最大限に発揮できるインクルーシブな学校環境が実現できるのです。
さらに、このDE&Iの考え方を教育現場に浸透させるためには、さまざまなステークホルダー(関係する人たち)との関係構築を通して、目的や目標を達成する、パブリック・リレーションズ(以下、PR)の役割も重要です。PRは倫理観に基づき、少数派への配慮や対話を通じて誰も取り残さないことを目指します。DE&Iを実現するためには、学校現場においても、PRの視点を取り入れ、包括的で互いを尊重するコミュニケーションを推進することが求められています。
PRを学校に導入することに関心のある方は、Public Relations for School 公認ファシリテーター認定講座にぜひご参加ください。この講座では、2日間にわたり、PRの基本的な考え方と学校への具体的な導入方法、ファシリテーションの手法について学べます。詳しくは以下のリンクをご覧ください。
https://pr-for-school.com/news/1127/
-
山本 崇雄
2024.12.25
パブリック・リレーションズが導くAI活用の未来— 主体的な学びと倫理的リテラシー
これまで約30年間、英語の授業をしてきた中で、生徒の英語力が大きく伸びる瞬間を何度も目にしてきました。しかし、それは決して僕の授業が「うまくいっ[...]
-
山藤 旅聞
2023.10.31
赤信号と社会課題
ついこの前の夏の記録的な暑さを忘れてしまいそうなほど、朝晩の冷え込みにも冬の訪れを感じるようになってきました。みなさん体調はいかがでしょうか。 [...]
-
木野 雄介
2023.12.28
求められる「リーダーシップとは?」(2)
リーダーシップ経験が有効とされるためには,私は次の3つの要素があると,私は考えています。 ❶コンプライアンスの意識 ❷対等なコミュニケーショ[...]
-
栢之間 倫太郎
2025.03.31
自分の「当たり前」に潜む言説
こんにちは。イギリスのSussex大学で教育と開発を学んでいる栢之間です。今回も私のコースで学んでいることをもとに、パブリック・リレーション[...]
-
認定講師の実践
2025.02.23
イベント企画から学ぶ誰ひとり取り残さない学校行事・ホームルーム運営のヒント
パブリックリレーションズ for school 公認ファシリテーターの大槻 侑杜(聖和学園高等学校)です。今回はパブリック・リレーションズ(以下[...]