Column コラム

なぜ学校教育にパブリック・リレーションズが必要か(5)〜SDGsの決定プロセスと自己修正

2024.02.08

 みなさん、こんにちは。パブリック・リレーションズ(以下PR)を学校教育に導入していくことの意義についてシリーズで書かせていただいています。第5回の今回はパブリック・リレーションズを支える3つのキーワードの最後である「自己修正」について書いていこうと思います。
 PRでは、目標達成のために自分の考えや行動をより良い方向に修正していくことを「自己修正」と呼んでいます。これは、表面的に相手に合わせる変更・調整ではなく、客観的に自らを見つめ、深いところで自らを変えることを意味します。
 例えば、SDGsはご存知のように2015年に国連加盟国193ヵ国すべてが合意して決められました。たとえ戦争状態にあっても、宗教的な対立があっても、文化や人種が違っても、「持続可能な世界」という一つの目標に辿り着いたのです。このプロセスこそ、「自己修正」の意味するところで、個人に当てはめれば、主義や信念に固執せずに目的を達成するための手段を選ぶということです。
 もう少し、詳しくSDGsの決定プロセスをPRの観点で見て見ましょう。通常、国連の方針などの策定は、政府や国連の代表、専門家などを中心に議論を進めて決められます。そこで決められた方針は、いわばトップダウンで私たちのところへ降りてきます。
 一方、SDGsは、約3年間かけて、地球上の全てのステークホルダーが意見を出せるように双方向のコミュニケーションを大切にして作られました。議論の主導的役割を果たしたと言われている国連オープンワーキンググループ(OWG)での議論はインターネットで公開されており、誰でも閲覧できる透明性を持っていました。
 さらに、OWGの2ndセッション(2013年4月実施)では、Twitterのアカウントが示され、誰でもOWGの参加者に質問をすることができました。その結果オンライン調査を含め約1000万人以上が意見を出し、議論することができたのです。
 つまり、SDGsはトップダウンで決められたものではなく、全てのステークホルダーが共通の目標を見つけるための双方向コミュニケーションが行われていたと言えます。この双方向コミュニケーションをベースとした合意形成のプロセスがあったからこそ、国連加盟国それぞれが目標達成のために必要な「自己修正」ができたのではないでしょうか。
 一方、学校では双方向コミュニケーションができていないことが多いように思います。そもそも学校生活の中心である授業が一斉教授型では、どんなに工夫しても教師主導の一方向のコミュニケーションとなります。対話型の活動を取り入れたとしても、クラスが30〜40名いれば対話が対等になることはあり得ません。PRのコミュニケーションは双方向で対等であるべきだと考えられているので、少なくとも子どもたちの生活の中心が一斉教授型の授業から脱する必要があります。そうでなければ、子どもたちはコミュニケーションを双方向で対等にするイメージを持てません。
 僕は一斉教授型の授業は、一部の力のある人が集団を引っ張っていくことの象徴だと思っています。ですから一斉教授型の授業が大半を占める学校では、教員も生徒も双方向コミュニケーションを行う意識が低くなり、力のある人、指導力のある人が全体を引っ張っていくというリーダー観が生まれます。その結果、大きな声の人に忖度し、全員が単に合意を図るのではなく、合意する目的を共有したうえで合意する意識も低くなります。そうすると情緒的な対立や単なる手段の対立が多くなり、会議の時間も長くなります。
 ですから、まずは教職員の間でPRの考え方を理解し、一斉教授型の授業を生徒主体にするなど、意図的に双方向コミュニケーションを取り入れていくことがこれからの学校に求められるのです。
 次回はこのシリーズの総括として、上記の問題点を補足しながら、対話を通して目的を合意し、その達成のための手段を選択、実行することの大切さを具体的に述べていこうと思います。
 「パブリック・リレーションズ for School」のテキストを使えば、実社会の事例を通して、コミュニケーションのスキルを学ぶことができます。テキストでは第4章で、「試行錯誤しながらより良い方向に進むこと」として自己修正の実例を取り上げています。ここでは、アスベストを建材として長年使っていた企業の社会的責任を最上位にして自己修正しながら行った対応について漫画を通して学んでいきます。このような事例と組み合わせると、学校と社会の対話のスキルがシームレスにつながっていきますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

参考文献: 
井之上喬『パブリック・リレーションズ第2版』(日本評論社, 2015年)
参考記事: 
“Third session of the Open Working Group on Sustainable Development Goals”, SUSTAINABLE DEBELOPMENT KNOWLEDGE PLATFORM,
https://sustainabledevelopment.un.org/owg3.html , 1 Feb 2024(閲覧日).