Column コラム

「対等な対話」の重要性

2022.01.04

 みなさんこんにちは。山藤旅聞です。みなさんにとって今年はどんな一年でしたか。そして来年は、どんな年にしたいですか。
 私は、師走に「旅」をすることを通じて、「対等な対話」の重要性を感じることがありました。そして、無意識のうちに、対等性を失った対話を生徒たちとしていることに気がついきました。そのことを今回はご紹介したいと思います。

 師走の旅とは、先々週は宮崎県都農町を訪れ、先週は徳島県美波町を訪れる旅でした。なぜ、旅に出ていたかといいますと、「旅する学校」と称したスタディツアー の打ち合わせや引率のためでした。既存の修学旅行を卒業し、日本が持つ自然の壮大さや美しさを感じたり、その地域の自然と調和した文化の歴史を体験したり、人口減少の課題に向き合い活動するカッコイイ大人と現地で出会って話を聞いたり、地域の中高生と未来について対話することを大切にする旅を、仲間の先生たちや生徒たちとつくっています。
 ツアー中の訪問先や体験について、事前には、半分しか決めず、現地での出会いと対話の中で、残り半分の活動を決めていくツアーデザインになっているので、その旅ごとの時期と参加するメンバーとでしか作れない、先生と生徒と地域の大人と共につくるツアーになっています。
 また、今年は、全国7ヵ所にツアーをつくることができました。7ヵ所に共通するキーワードは「カッコイイ大人がいる、東京とつながりがある人や地域、人口減少、一次生産の現場が日常にある、持続可能な未来に向かっている」としています。そんなツアーですから、予定調和であったり、結論があるツアーでもないことが分かっていただけると思います。
 さて、このツアー中は、ひたすら「対話」をします。先生と生徒、生徒と生徒、生徒と大人、先生と大人などなど。。。本当によく対話します。
 そんな中、私の大きな気づきの1つは、訪問先の大人の笑顔が素敵であることでした。
 訪問先の大人たちは、みなさん、自分の命と向き合い、自分の使命を考え、地域の自然や人との関わりを大切にしながら、ポジティブな考え方で行動を続けている人たちばかりでした。いわゆる逆境とも言える状況にも関わらず、みなさんの笑顔は透き通るような笑顔ですし、出てくる言葉はポジティブにあふれているのです。さらに、今回交流できた20代、30代の若者たちも、とっても幸せそうで元気なのです。どちらの地域も、高校は閉校し、複数あった小学校も、中学校も1つに統廃合され、同級生は数人である学年もある状況で、僕らとしては「かわいそう」とか、「大変ですよね」と言ってしまいそうになるのですが、みんな元気で明るいのです。交流した中高生の中には、地元が大好きで、この地域を活性化する未来に貢献したいと、力強く語ってくれる生徒にも出会いました。

 なぜ、2つの地域の中高生はみんな笑顔で、ポジティブなのか。

 原因は教育か?つまり学校か?と思い、学校での交流の際は東京との違いを見つけようとアンテナを高めました。現地の先生たちは生徒を愛し、一生懸命で、生徒との関係性もよい感じでした。一方、とても忙しそうで、ピシッとしていて、良くも悪くも、想像通りで都心の学校との大きな違いは感じませんでした。
 そんな時、上記の問いの答えに気づけるヒントを、地元の中学生から伺うことができました。それは、地元の中学校との交流が終わった後の、休み時間に、地元の中学生が自分のところに来てくれて対話していたときのことでした。
「先生は、なぜ都農町に来たのですか?都農町のすごいところはありましたか?」と生徒。
僕は、「自然の豊かさ、文化を感じる町の雰囲気、人の温かさ、地域に貢献している人たちの活動やコミュニティーが素晴らしい」ことを伝え、東京にないものがここにはたくさんあることを伝えました。そうすると、
「よかったです。私は、この町が大好きで、その魅力を多くの人に知ってもらいたいです。中でも、この町にいる自分の親世代に知ってもらいたい。」というのです。それはなぜかと聞くと、「親は、将来はこの町を出て、仕事のある都会に行きなさい、というのですが、それを止めたいんです。」と、キラキラの笑顔で教えてくれました。
 そこで、僕はハッと気がついたのです。生徒が、学校や地域、そして家庭で触れる大人の姿勢や言葉に、大きな影響を受けることは当然ですが、時に、こちらが良かれと思い、もしくは、生徒たちのためを思って伝えていたことで、かえって生徒たちの邪魔をしていたのではないか、と。

 その後、宿舎に戻って、上記の内容について、本校の高校生たちと対話している中で、ふと、こんな会話が生まれました。
「先生たちは、僕らのことを考えて、こんなツアーを作ってくれてとっても嬉しい。でも、ツアー前に、先生たちが授業でよく使っていた、予測不可能な時代・答えのない世界・自分で考えて行動する、という言葉は、不安になるし、怖い気持ちになる。自分にはできないかもしれないと思うことがよくあった。でも、今回のツアーで出会った人たちは、みんな、生き方を自分で考えて、行動している人たちばかり。何度も、答えはないと教えてくれたので、勇気が湧いた」と。

 このツアー中に出会った大人も若者も、中高生も、みんなポジティブで、笑顔が絶えないのはなぜか。それは、未来と向き合い、行動を続ける大人に触れているからではないかと。
そして、そんな大人は、決して、生徒たちを不安にさせる言葉は使っていないことに気がついたのです。今回出会った大人たちが使っている言葉を振り返ると、「やってみたい から」「楽しそうだから」「必要だと思ったから」「地域が困っていたから」「地域を魅力的な場所にしたいから」などなど、生徒たちに不安とか恐怖を与える言葉は使っていなかったのです。

 私はついつい、生徒たちに以下の言葉をよく使います。
「予測不可能な時代だから・・・」
「答えのない世界だから・・・」
「価値変容の激しい時代だから・・・」と。
でも、これは生徒にとっては、とっても不安で、時には恐怖を与え、行動する気持ちにブレーキをかけている言葉なのだと気がつきました。それは、「地元に残らないで、仕事のある都心に行きなさい」と言っている親と同じではないかと思ったのです。
  それはつまり、対等な対話を生徒たちとできていなかったということです。パブリック・リレーションズで解釈すると、無意識のうちに、双方向性コミュニケーションができていなかったと気がついたのでした。

 生徒との対話をしていく時に、双方向性のコミュニケーションは取れているのか。つまり、自分と生徒は対等になっているか。無意識に生徒に不安や恐怖を与えてはいないか。来年は、常に自分のコンパスをしっかり働かせて、生徒との対等な対話を続けていきたいと思いました。また、中高生が時流を読み解き、自分たちの行動で未来は変えていけるという感覚を持っていくことも重要なので、私たち教員がどのような言葉で生徒たちと対話をしていくのかの言葉選びが、双方向性コミュニケーションをしてくためには重要になりますね。