Column コラム

遅刻は自己修正のチャンス!?

2021.12.06

 みなさんこんにちは。
 新渡戸文化中高の山藤です。早いもので今年もあと1カ月となりました。みなさまはいかがお過ごしでしょうか。

 今回は、本校が実施した選択式スタディツアーの中で、パブリック・リレーションズ(PR)の柱の一つである「自己修正」によって、生徒が成長していくとともに、コミュニティー全体も成長する機会に遭遇しました。そのことについてお伝えしたいと思います。
 本校では、年に2回、選択式スタディツアー を実施しています。添乗員さんに行き先を指示される受動的な修学旅行を見直し、日本の未来を見つめ、今までの延長線に向かう未来に疑問をもち、持続可能な未来に向けて活動している大人に会うことを通じて、自分の生き方や学び方を問い直すきっかけを体験的に見出すスタディツアーを実施しています。夏と秋に実施し、高1と高2、時には高3のタイミングで、自由に参加でき、行かないことも選択できるスタディツアーです。2021年の11月は、復興と循環型社会・過疎化と人口減少・アート&デザイン・1次産業と6次産業・森林の未来・2拠点移住等をテーマに、全国7カ所から選択するツアーとなりました。具体的には7つのグループ(地域)から選択できるツアーとなりました。例えば、三重県伊勢市、熊野市や、宮城県石巻市、広島県尾道市、香川県高松市などです。石巻市では音楽活動を通じての地域おこしや、自然の音を楽器で奏でる創作活動があり、尾道市はアートとデザインで地域おこしに成功した地域など、どの地域も日本の未来の諸課題に向けて、解決アクションが繰り広げられている魅力的な地域ばかりです。
 私は、過疎化・1次産業と6次産業・森林の未来をテーマとした三重県熊野市二木島の漁村に宿泊しながら、定置網漁業と海産物の加工・流通や、森林の維持管理、木材の加工と流通、耕作放棄地(田んぼ)のリノベーション等を見つめるツアーに引率しました。約1週間のツアーなのですが、毎日の活動の基本は、朝4時過ぎに起床し、5時には港を出る定置網漁業です。取れた魚を市場に持っていき、セリを見て、宿に戻り、市場で売れなかった魚を使って朝食をつくることから1日が始まります。朝食を食べ終わってもまだ9時頃。そこから午前、そして午後、時には夕方と、訪問地へと旅するツアーです。
 市場で値段のつかない魚でも、漁師さんと一緒に料理すると、今まで食べたことのない美味しいお魚ばかりで、値段や流通の「規格」に違和感を感じます。漁の帰りに船上で眺める美しい朝日は格別の景色。日中は、100年先を想像しながら森を管理する林業家に森を案内していただいたり、大切な資源である木材に価値を高める加工をし、工務店に届ける製材家に木材可能の歴史を学び、防災と植林を管轄する国土交通省を訪問し、夜は満点の星空を、天体望遠鏡で観察しながら天体の学習です。濃厚で贅沢な毎日でした。そんな濃厚な毎日だからこそ、3日目の朝の出航時間に、生徒全員が「寝坊・遅刻する」という出来事が起こりました。
 読者のみなさんは、このツアーの引率中、定置網漁業のために漁港に5:00集合の場面で、生徒全員が寝坊している状況となった際、どのような行動をとりますか?
 宿舎に戻り、部屋の一つひとつを訪問してたたき起こしに行くことも考えました。もしくは、予定通りの定置網漁業はスタートしてもらい、自分が現場に残って、遅れてきた生徒たちを「指導」して、漁師さんたちに謝らせることなども考えました。
 しかし、前日まで、早朝から一生懸命活動し、夜も星空を見て勉強しながら、宿舎では1日の振り返り会をし、洗濯などもやり、22:00前にはしっかり消灯している姿を理解しているので、ここは生徒たちの「自己修正」をする大きな成長のチャンスと思い、まずは漁師さんたちに私の方から深々と謝り、以下のお願いをしました。
・生徒たちが言い訳をしてきたら、本気で怒ってください。
・生徒たちが謝ってきたら、許してあげてください。
この2つのことを、まずは引率者の責任として、遅刻の現状を深々と謝り、上記のお願いをしました。すると漁師のみなさんはニコニコしながら了承してくださいました。
 そして、遅刻して到着する生徒を待つこと1時間。生徒たちは6:00をもうすぐ向かえそうなタイミングで、足音だけでも焦っている様子がわかる焦りを見せて、髪型もいかにも今起きました!!!という状態で、全員で漁港に現れました。そして、こちらが声をかける間も無いくらいのタイミングで、みんなで一斉に「ごめんなさい!!!」と言ってきました。
 その途端、この場の緊張が一気に和み、漁師さんたちは満面の笑みで、「朝早いもんなー」「体調は大丈夫か?」「これからでも漁に行くか?」と優しい声をたくさんかけてくださいました。漁師さんたちの優しい言葉と許しの心に、泣き出す生徒もいる中、みんなで1時間遅れで定置網漁業に出航しました。今回、こちらの選択は女子生徒のみでした。
 その後の生徒たちの頑張りや、時間厳守の主体的な行動はみなさんも想像できると思います。翌日の定置網漁業では30分前に漁港に集合しているなど、時間を大切にする行動が自然とできていきました。
 PRでも大切にしている「自己修正」によって、遅刻した生徒たち全員が一気に成長した瞬間でもあり、結果的には、その場のみんなが幸せになり、コミュニティー全体が幸せに成長していく機会ともなりました。あの場面を振り返り、遅刻した場面で怒らなくてよかったと思いました。自らの自己修正による成長を経験した生徒たちは、これからも失敗しながら、たくましく成長していくことでしょう。そして、その周りにいる大人は、そんな生徒たちを信じて見守り、時には許すことも大切なことかもしれません。