Column コラム
エイジェンシー(Student agency)と責任(responsibility)について
2021.05.06
2年目となるコロナ禍における5月の連休ですね。みなさんいかがお過ごしでしょうか。僕は家族との時間や読書の時間を充実させることができた連休となりました。読書は、経済と暮らし、人類学、環境、教育の分野の本を読みました。みなさんの興味と重なる分野があれば嬉しいです。
さて、今回のコラムでは、連休中の読書から、みなさんと共有したいことをまとめてみようと思います。それは、「OECD Education2030 教育の未来(ミネルヴァ書房)」という書籍の内容についてです。
2015年からOECD(Organisation for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構)で実施されてきているOECD Future of Education and Skills2030というプロジェクトについてまとめてある書籍です。その中で、2019年にOECDが公表したコンピテンシーの枠組みが「OECDラーニング・コンパス2030」という名称で公表されており、そこには子どもたちに「何かを教える」ということに止まらず、一人ひとりの生徒が信頼できる「コンパス」をもち、より変わりやすくて不確実で、複雑で曖昧となる世界(Volatile,Uncertain,Complex and Amiguous:VUCA)においても、自信を持って、自らを導いていくことができるように手助けすることを教育に強く求める内容となっています。この感覚は、日本の教育現場で感じている諸課題とも重なりますし、諸外国でも同様の課題が教育界で認識されていることも確認できました。また、2015年といえば、国連でSDGs(持続可能な開発目標)が策定された年でもあり、今、まさに時代が変革している渦中であることも強く感じました。
中でも、みなさんと共有したいと思ったことは、ラーニング・コンパスにおいて中核的概念とされている「エージェンシー(Student agency)についてです。エージェンシーは、「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任を持って行動する能力(the capacity to set a goal, reflect and act responsibly to effect change)」と定義されており、パブリックリレーションズとも親和性を強く感じました。日本の教育界にいて、エージェンシーに近い概念は、「当事者意識」や、「主体性」「主体的」という言葉になるでしょうか。「当事者意識」で思い出されるのは、日本財団の18歳意識調査の第20回テーマの「国や社会に対する意識」において日本の18歳は全ての項目において他の国に差をつけて低かったことが思い出されます。また、「主体」という言葉であれば、学習指導要領においても「主体的・対話的で深い学び」という表現や、中央教育審議会の答申や報告書においても「主体的に学習に取り組む態度」や、「主体性を持って多様な人と協働して学ぶ態度」と表現されていることが思い出されます。世界的に、生徒たちが諸課題に対して当事者意識を持って主体的な学びを深めていくために、教師から「教える」教育から、生徒が「学ぶ」教育へと変容していることも改めて実感できました。
また、僕がみなさんと特に共有したかった点は、OECDのエイジェンシーの定義に「責任(responsibility)という表現が入っていたことです。これからの時代の教育には、「責任」が重要であるというのです。SDGsにも「つくる責任、つかう責任」という目標がありますが、OECDが生徒に求める「責任」とは何でしょうか。僕は、気候変動の解決、社会の諸課題の解決、そして持続可能な地球や社会を目指すマインドや、諸課題に対する当事者意識を持つことを「責任」と表現しているのではないかと考えました。パブリックリレーションズの考えで整理すると、倫理観(みんながハッピーであるかどうか)による行動修正と親和性があるように思います。