Column コラム
まるい言葉とシカクイ言葉
2022.07.28
ある朝,騒々しい声が聞こえてきました。
どうやら小学3年生の娘と妻が喧嘩をしているようです。
経緯の仔細は聞いていてなんとなくわかってきました。
妻「私はあなたの召使いじゃないんだよ!!」
娘「言ったのにやってくれないからじゃん!」
どの家庭にもよくある光景ではないでしょうか(笑)
もう少し詳しく聞いていると,娘は妻に「パンにハチミツをぬってほしい」と言ったが,妻は聞いていなかった(聞こえなかった)らしく,ハチミツを塗らずにパンを提供したようです。
それに憤慨した娘は「ハチミツ塗れって言っただろ!」と強い口調で妻に反抗したようです。
それに対し妻は「だったらもう食べなくていい!!私はあなたの召使いじゃないんだよ!」と反論し,冒頭のやりとりに戻ります。
長女は自室に閉じこもり,えんえん泣き始めました。どうやら2人では収拾がつかないようです。
さて,これはどこに問題があったのでしょうか。
娘の発言「ハチミツ塗れって言っただろ!」がまずかったのは皆さんもお分かりかと思います。
ただ,娘に話を聞いてみると「でも,私はハチミツ塗ってって言ったのに,ママが塗ってくれなかったんだもん」という言い分があるようです。
なぜここに問題があるのかというと,
「子供が親に言う言い方ではないから」という考え方が多そうな気がします。
では「私はあなたの召使いじゃないだよ!!」は親が子に言う言い方として適切でしょうか。
売り言葉に買い言葉では,よい人間関係は構築できません。
こうしたやり取りを,パブリック・リレーションズ的に考えてみましょう。
まずは「倫理観」をベースに,みんなが幸せになることを目指します。
みんなが幸せなゴールは,娘が頼んだ通り,妻はパンにハチミツを塗って提供することでした。しかし,ここで妻はパンにハチミツを塗りませんでした。だからといって妻に瑕疵があるとはならないでしょう。なぜなら妻にはその情報が届いていなかったからです。
そこで大切なのが「双方向性コミュニケーション」です。双方向性コミュニケーションで大切なことは,自分が持っている情報が100%相手に伝わることです。ただ,言っただけでは「伝わった」ことにはなりません。
娘は「パンにハチミツ塗って」と「言った」ことが「伝わった」ことだと勘違いしてしまった,実はここに問題の根源が存在しているのです。
これを改善するには,伝わったかどうかの確認をすることです。相手の同意を確認する,つまり返事です。このようなやり取りに,ふだんから阿吽の呼吸のようなハイ・コンテクストなやり取りがあるとミス・コミュニケーションが起きやすいので注意が必要です。
話が少しそれますが,大人が子供に対して「言ったのに聞いてない方が悪い」という論拠で叱っているシーンをたまに見ます。伝わらない言い方では双方向性コミュニケーションは成立しないため,良い人間関係は成り立ちません。
伝える手段が最適ではなかったのであれば,そこは改善すべき点でしょう。私は,学校や家庭では,言いたい話を途中で区切って「ここまでわかった?」と確認を取るなどしています。また,家庭では再現しにくい例ですが,レストランではお客様のオーダーをメモを取ったり,機械に入力したりして,それを最後確認する,というまさにパブリック・リレーションズができています。
さて,その後,娘は「ハチミツ塗れって言っただろ!」と強い口調で反論してしまいました。
この言葉を聞いた人は、誰でも不愉快になり、「倫理観〜みんなが幸せになることを目指す」にはあてはまりませんね。
このことがどうやったら小学3年生の娘に伝えるか。私が使った言葉が
”まるい言葉”と”シカクイ言葉”です。
私「ハチミツが塗られてなかったことを伝える言葉がカクカクしてシカクイと受け取るほうはカドが当たって痛いんだよね。それもさっきはすごいスピードで投げちゃった。余計に痛い。その言葉をもっとま〜〜るくして,フワっと投げてごらん。内容や意味は同じでも,そっちのほうが相手には受け止めやすい。伝わればハチミツを塗ってくれるから,みんなで幸せになれるでしょう?今からでも間違っていたな,と思ったら直してごらん。何がいけなかったのか,わかった?」
娘は,妻がハチミツを塗らなかったことに憤慨しても,ハチミツが塗られるわけでもないし,誰も幸せにならないことに気づきました。(=倫理観)
そして,言葉は伝わってこそ意味がある(=双方向性コミュニケーション)ことも理解し,シカクイ言葉によって相手を傷つけてしまったことを謝罪し,まるい言葉で伝え直すことができました(=自己修正)。
このように,パブリック・リレーションズの考え方は,問題の根本を発見し,良い人間関係を築くことができます。
ぜひ実践してみてください。