Column コラム
「アドラー心理学とパブリック・リレーションズ」
2020.10.29
朝晩が冷え込むようになりました。
羽毛布団を出すにはまだ早い気がして、この時期の寝具は毎年悩みます。
さて、皆様は、アルフレッド・アドラー(1870-1937)という心理学者を
ご存知でしょうか。
数年前にベストセラーになった『嫌われる勇気(岸見一郎著)』で
注目された後、アドラー心理学はドラマ化されたり
漫画化されたりするなどして、一気に日本中に広まりました。
アドラー心理学とパブリック・リレーションズは親和性がとても高いような気がします。
アドラー心理学の特徴の一つに「原因論」ではなく「目的論」で考える、というものがあります。
「原因論」は「現在は常に結果」と考え、過去の出来事と因果関係で説明しようとします。
一方で、「目的論」は「現在は常に手段」と考え、
未来に達成しようとしている目的によって因果関係を説明しようとします。
傘を例に考えてみます。
原因論で考えると、傘をさすのは、(過去に)雨が降ってきたから、となりますが、
目的論で考えると、傘をさすのは、(これからの未来)雨に濡れたくないから、となります。
同じじゃん、と思うかもしれませんね。少し解説をします。
原因論は「雨が降ってきた」という動かしようのない原因があるのに対し、
目的論は「雨に濡れない方法」として傘を選んだという柔軟な考え方です。
つまり、目的論の場合、
「濡れないためには、合羽でもいいし、タクシーでもいいのだが、
合羽は収納が面倒だし、タクシーはお金がかかるので、傘をチョイスした」
という考え方をします。
ここに、アドラー心理学の「目的論」の重要なポイントがあります。
・人間は、目的のために手段を選んでいる。
・なので、目的のためにベストでなければ選び直すこともできる。
このあたりが、パブリック・リレーションズ(PR)の考え方に通じるものがある、
と私は感じています。
では、部活に遅れるのが嫌で掃除当番をサボった生徒を例に考えてみましょう。
①まず、これをアドラーの「目的論」に変換して考えてみると、
➡サボった目的は部活に遅れないこと。掃除をしないことが目的なのではなかった。
②ここにPR第1の柱「倫理観」のエッセンスを入れると、
➡そもそも何のために掃除をしているのか?部活って遅れちゃいけないのか?を考える。
③そして、PR第2の柱「双方向性コミュニケーション」のエッセンスを入れると、
➡生徒同士で対等に対話をする(オープン&フェアで話し合う)。
④最後に、PR第3の柱「自己修正」のエッセンスが入ると、
➡サボることで他人を不幸にしていることに気づき、当番の曜日を代えてもらうことにした。
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原因(=部活に遅れるのが嫌だ)に囚われてしまうと、
結果(=サボる)は変えようのないもの、と考えてしまいがちですが、
「未来は変えられる」と考えるのがアドラー心理学です。
パブリック・リレーションズも、より良い方向に進むためには、
過去に囚われずに、試行錯誤すること=「自己修正」を3つ目の柱としています。
このように、パブリック・リレーションズとアドラー心理学の掛け算ができると、
生徒指導がさらに効果的なものになるのではないか、と考えています。
私たち大人が「ベストな答え」を安易に子供たちに教えてしまうと、
子供たちから少しずつ少しずつ自分の頭で考える癖を奪っていってしまい、
果ては、思考停止型・指示待ち型の人間になってしまいます。
そのためには、大人が「教えない勇気」を持つことも大切なのでないか、
と私は考えています。