Column コラム

木野 雄介

  • 私立中高講師
  • 歴検日本史博士

求められる「リーダーシップとは?」(3)

2025.08.13

私は、パブリックリレーションズの3つの要素である

①倫理観
②双方向性コミュニケーション
③自己修正

を、教育現場におけるリーダーシップ育成に生かすことが重要だと考えています。

この考えをもとに、リーダーシップ経験が有効であるために必要な要素を、以下の3点に整理しました。

❶ コンプライアンスの意識(=倫理観)
❷ 対等なコミュニケーションによる合意形成(=双方向性)
❸ 最上位目標から最適手段を調整する(=自己修正)

最終回の本稿は、

❸最上位目標から最適手段を調整する です。

 

前回のコラムで私はこのように述べました。

 

>当初の条件と現実が違ってきた場合は、合意内容の変更を提案するのもリーダーの役割です。
>つまり自己を修正することができます。

 

今回は、この「自己修正」について探ります。 特に「最上位目標をぶらさずに、最適な手段を調整する」という観点から、 なぜこの力がリーダーシップにおいて重要なのか、また教育現場でどのように育むことができるのかを考えます。

 

自己修正の「自己」とは何か

自己修正とは、単に間違いや非効率な点を修正することではありません。 「他人に言われたから直した」のでは、それは“他者修正”です。

「自己」とつく以上、自らが問題に気づき、自ら修正の必要性を判断し、自ら行動を変えるというプロセスが含まれます。

この「気づき」は、まず外部環境の変化を察知することが大事です。 その上で、「どうすればもっと良くなるか?」「そもそもこれは何のための行動か?」という問いを繰り返し、 自分の行動の意味や有効性を振り返ることで、徐々に高まっていくスパイラルのようなものです。

教育改革で知られる工藤勇一氏は、次のように述べています。

「対立がある時には上位と下位を見比べて上位のところで握手すると、下位の自分の考えを修正しなければならない、ということに気がつく、というこの部分が大切で、それは経験という訓練を重ねて身につけるしかないのです。」(引用:Luminary Talk! vol.15 横浜創英中学・高校校長の工藤勇一さんに聴く〜「これからの時代に私たちが実現したい民主主義」〜”誰一人置き去りにしない”学校改革から学べること〜 前編 https://note.com/projectmint/n/nbc23fd36e372

これは、自己修正力が単なる反応ではなく、意図的に育てるべき“技術”であることを示しています。

自己修正とは「ブレ」ではない

「リーダーが一度決めたことを後から変えるのは『ブレている』のではないか」 そう感じる人もいるかもしれません。

実際、日本の組織文化では「石の上にも三年」に象徴されるように、一貫性や継続性が美徳とされがちです。

しかし、自己修正は、目的を変えることではありません。 むしろ、最上位目標(=その行動が目指す理想的な状態)に照らして、現実に合わなくなった手段を柔軟に見直すことです。

これは「ブレる」どころか、最上位目標に対して誠実であるからこそできる行為なのです。

※ただし、手段を見直す中で、結果的に最上位目標の再設定が必要と気づくケースもあります。とはいえ基本的には、目的(最上位目標)から出発して手段を見直すという姿勢こそが、ブレずに改善を進める鍵となります。

目的と手段の混同を避ける

自己修正がうまくいかない理由の一つに、「目的と手段の混同」があります。

最上位目標は「その行動が目指す理想的な状態」であり、手段はあくまでそれを実現するための方法にすぎません。

しかし、教育現場では「毎日の掃除」や「長時間の練習」など、手段が慣習として定着しすぎてしまい、 本来の目的が見えなくなることが少なくありません。

なぜこうした混同が起きるのか。それは、教育現場の構造に原因があります。 先生や先輩が決めたことに生徒や後輩が従うという「上位下達」の力学が根強く残っており、 方針を変更することは「優柔不断」「中途半端」と受け取られがちです。

逆に、「最初に立てた計画を守り通す」「決めたことをやりきる」といった姿勢が評価される傾向があるため、 そもそも手段を問い直す文化が育ちにくいのです。

しかし、当初の計画や方法はあくまで「その時点での最善策」にすぎません。 変化を前提とした柔軟な見直しこそ、成熟した判断力の表れです。

手段を疑うことは、目的を大切にすることでもあります。 自己修正力とは、「この手段は本当に目的に合っているか?」と問い直す勇気と視点でもあるのです。

自己修正の実践例

例①:部活動の練習メニューを見直す判断

ある学校の運動部では、代々受け継がれてきた練習メニューが「きついのが当たり前」とされていました。

しかしキャプテンが「このままではケガも多いし、中1でやめていく部員が多い」と気づき、 練習の負荷や内容を見直す判断をしました。

例②:教室の掃除の方法を見直す判断

あるクラスでは「毎日掃除をする」ことが慣習になっていました。すると、「どうせ放課後に掃除する」と思うので教室を汚く使う生徒が多いことに気づきました。また、生徒たちの多くは嫌々掃除をしていて、掃除は「儀式」のように形骸化し、当番をサボる生徒も後を絶ちませんでした。

そこで最上位目標である「綺麗で衛生的な教室環境を維持する」に立ち返り、 掃除の頻度や方法を見直すことにしました。

その結果、美化委員が清掃の必要性を判断した日だけ実施するスタイルに変更しました。すると、クラス全体も日ごろから教室を丁寧に使うようになり、清掃の頻度は週1〜2回に自然と減っていきました。

例③:「日直」のあり方を再設計する

あるクラス担任は、従来一人で担当していた日直を、グループでの週番制に変更しました。 というのも、一人だと役割を忘れてしまってクラス全体に迷惑をかけてしまったり、タスク感が強くて嫌々やっていたりする傾向があったことに気づいたからです。

そこで「クラスの動きを支える」という最上位目標に立ち返り、 複数人で支え合いながらリーダーシップを体験できる設計へと見直しました。

結論:なぜリーダーシップ”経験”が重要なのか

これまでの3回にわたる考察から、リーダーシップの本質が見えてきたかと思います。

リーダーシップとは、組織や前例にただ従ったり、人を従わせたりする「管理」、「指導」、「権限の行使」の類ではないことはわかっていただけたでしょうか。

  • ❶ コンプライアンスと人権尊重:リーダーは法令やルールを守るだけでなく、すべての人の人権・尊厳を尊重にする行動を通じて信頼を得る、つまり「倫理観」が必要なのです。
  • ❷ 対等なコミュニケーションによる合意形成:チームや組織の意見に耳を傾け、「理解・納得・合意」のための対話力・表現力が求められます。
  • ❸ 自己修正力:変化に対応し、状況に応じて行動やアプローチを修正する力が必要です。このとき、ブレない倫理観を軸に選択肢を見直せる人こそがリーダーです。

リーダーシップ経験を通じて、私たちは自己修正力、目標達成に向けた調整能力、そして対等なコミュニケーションの重要性を学ぶことができます。
同時に、それが簡単なことではないことも実感します。うまくいかないことや、対立・葛藤を経験することもあるでしょう。こうした体験のすべてが、リーダーシップ経験として重要なのです。

なぜなら、現実にはリーダーシップを経験したからといって、あらゆる場面でリーダーになれるわけではないからです。むしろ多くの場面では、私たちはリーダーを支える側に回ります。そうしたとき、リーダーの視点や苦労を理解していることは、大きな助けになります。決して表には出ないプレッシャーや、難しい判断の背景を想像できる人は、組織の中でより良い協力関係を築くことができるでしょう。

リーダーシップを理解し、実践した経験は、個人の成長を促すだけでなく、あらゆる組織の目標達成に貢献する力となるのです。