Column コラム

なぜ学校教育にパブリック・リレーションズが必要か(6)〜校則改善に向けての対話がうまくいかない訳

2024.04.06

 みなさん、こんにちは。パブリック・リレーションズ(以下PR)を学校教育に導入していくことの意義についてシリーズで書かせていただいています。6回目を迎え、最終回の今回はPRを学校に導入した後の学校生活をイメージしながら書いていこうと思います。新年度が始まり、生徒、教員、あるいは保護者を交えて対話をする場面もたくさんあると思いますので、校則を例にPRの対話の手法を具体的に紹介します。

 学校で対話がうまく行っていないとき、PRの3つの観点からそのプロセスを検証するとその理由が明確になります。

・倫理観→みんながハッピーであること(誰も取り残さない)

・双方向コミュニケーション→対等に対話を重ねること

・自己修正→試行錯誤しながらより良い方向へ進むこと

 例えば、最近では「ブラック校則」問題を改善しようという対話がよくみられるようになりました。この問題の主なステークホルダーは当事者である生徒、そして先生、保護者になります。これらのステークホルダーの校則に関する価値観はそれぞれ大きく違い、時に感情的な対立にもなり、話し合いがうまくいかないことも多いと聞きます。

 日本では、意見の対立と価値観の対立を区別なく話し合っていくことがよくあるように思います。「心が通じればわかってくれる」「熱意があれば説得できる」・・・こんなセリフを聞いたことはないですか?そして、「折り合いをつける」こと、相手に忖度することがしばしば起き、話し合いが終わっても納得できない感情が生まれます。

 校則問題をPRの観点で見ると、まず、最初に大切なのは、ステークホルダーの誰もが納得する目的・目標の合意です。

 例えば、「校則は伝統なので大切にする」は誰もが納得するでしょうか?一度決めたものを「伝統」として変えてはいけないとしたら、その組織は社会の変化に取り残されるでしょう。

 「校則は社会での礼儀を教えるため」はどうですか?一見納得しそうですが、多様化の進む現代社会では、髪の毛の色や服装などの自由度はかなり広がっています。「そんな髪の毛の色じゃ社会で通用しないぞ」は現代社会には当てはまりません。礼儀は一律に教えることではなく、相手の立場に立つエンパシーを教えることの方が重要です。自分の振る舞いが相手にどう捉えられるかを考えて、行動を変えていく力はPRの双方向コミュニケーションで重要な観点です。

 ですから、対話の前に、誰もが納得する目的・目標を合意しなければ話し合いはうまくいきません。目的・目標の設定は、対立があったときに常に戻る指標としてとても大切なのです。

 それでは誰も取り残さない「校則」の目的はなんでしょうか?「15歳からのリーダー養成講座」の中で、著者の工藤勇一は校則の目的を「生徒の自由と幸せを保障するため」と書いています。この目的に反対するステークホルダーはいないでしょう。

 このように誰もが納得する目的・目標が合意できたら、これが対話の拠り所になります。意見の対立が起きたら、それが「生徒の自由と幸せを保障するため」であるかを確認すればいいのです。

 例えば、「髪型は中学生らしいもので、黒でなければならない」はどうでしょう。髪の毛の色が違っていても誰も不幸にしませんよね。ですから、このルールは「生徒の自由と幸せを保障するため」という目的にあっていません。それだけでなく、外国人や外国にルーツを持つ子どもたちも普通に入学してくる時代ですから、最上位の目的を超えて、人権に関わるものですから、即座にやめなければいけないものだと思います。

 このように、対立したら目的・目標に戻って、手段を話し合うという手順を踏むと、校則もだいぶ整理できるでしょう。目的・目標に戻って、自分の価値観を超え、手段を判断をしていけばいいわけです。例え、自分の中に「中学生に染髪はふさわしくない」という価値観があったとしても、「生徒の自由と幸せを保障するため」という目的を達成するために、「髪型についての項目を廃止すること」に賛成する。これがPRでいう自己修正になるわけです。

 ここからは個人的な意見ですが、校則は「生徒の自由と幸せを保障するため」以前に人権に反するものが多くあります。ですから、子どもたちの人権に反する校則については、一旦ゼロにした方がいいと思います。実際、横浜創英中学・高等学校では一旦校則をゼロにしました。生徒たちの髪の毛の色もバラエティー豊かに変わってきています。でも、このことで教育活動に支障を来たす事はありません。

 校則をゼロにすることは、生徒会や生徒自治を生徒主体にしていく第一歩に過ぎません。これから生徒会を中心に、「生徒の自由と幸せ」を実現する自治活動を始めてほしいと考えています。

 Public Relations for Schoolのテキストを使えば、実社会の事例を通して、コミュニケーションのスキルを学ぶことができます。今回の連載で紹介したPRの3つの観点に紐づくスキルが漫画を通して学べます。学校と社会の対話のスキルがシームレスにつながっていきますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

 

参考文献: 

井之上喬『パブリック・リレーションズ第2版』(日本評論社, 2015年)

工藤勇一『15歳からのリーダー養成講座』(幻冬舎, 2022年)